スカーレット
彼は少し冷めてきたハンバーグを口にいれ、飲み込む。
頭の中が「?」でいっぱいな私を面白がっているかのように見える。
「あたし、店のねーちゃんだったんでしょ?」
スナックのホステスに惚れる男なんて、零細企業の中年経営者くらいだという勝手なイメージがある。
それはきっと、昼間にケーブルテレビで見たVシネマのせい。
勝彦はどちらかというとエリートで、若いのにスナックなんかに通っていたこと自体が信じられない。
そういう意味を込めて問うと、彼は控えめに声を上げて笑い出してしまった。
「俺が紀子と出会ったのは、店じゃないんだよ」
「え? どこ?」
知らされていた真実が、また一つ虚偽になった。
「近所のスーパー」
「は?」
「……の、ATMコーナー」
「はぁ? 何、それ」
近所のスーパーの、ATMコーナー?
それって出会いっていうの?
予想通りの反応だったのか、勝彦はまた笑う。