スカーレット
「俺と紀子、しょっちゅうそのATMで一緒に並んだんだ。俺が今の部屋に住み始めてから、何年も。お互いに顔は覚えているし、でも友達というわけじゃないから話したりはしなかったんだけどね」
なんとも不思議な話だ。
同じATMを使っているからといって、何をどうしたら恋人同士になるわけ?
きっとそれも顔に出ていたのだろう。
勝彦は詳細を語ってくれた――。
ある日ね、そこのATMが故障してたんだ。
紀子は先に到着してて、修理の人にまだですか? って催促してた。
俺は別に次の日でもよかったし、諦めて帰ろうとしてたんだけど、紀子は酷く焦ってるみたいだった。
「ああ、時間が……」
って、時計ばかりを気にして。
そこでね、俺は初めて紀子に話しかけたんだ。
「たぶん、今日はもう無理ですよ」
って。
そしたら紀子、この世の終わりみたいな顔をして、
「どうしよう、お店の買い物頼まれてるのに……」