スカーレット

 家族に恋人。

 普通ならきっと大事な存在だ。

「ごめんなさい。あたし、本当にわからなくて……」

 わからないから、怖い。

 しんみりと表情を歪ませる三人は、母の合図で一旦病室から出て行った。

 出て行ったはいいが、ドアに近いこのベッドでは大体の会話が聞こえる。

 意味、ないですけど。

「かっちゃん、紀子と付き合ってるって本当なの?」

「黙っててごめんね。店のお客さんに知られたら良くないと思って隠してたんだ」

「そうだったの……」

「なあ、入院の理由、姉ちゃんには言わない方がいいんじゃないか?」

「そうね。辛いこと、わざわざ思い出す必要ないもの。思い出さないうちは言わないでおきましょう」

 辛いこと?

 何よ、気になるじゃない。

 自分が自分でない状態というのは、なんとも気持ちが悪い。

 一番近い存在であったはずの三人は、今の私にとっては他人同然。

 彼ら以外誰も知らないと思うと、急に孤独を感じた。

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