スカーレット

「誰? その男の人、名前わかる?」

「そこまでは……」

「どれくらい付き合ってた人なの?」

「三ヶ月くらいかしら」

「どうして200万もあげなきゃいけなかったの?」

「さあ。事情があってお金が必要だったみたいだけど、詳しいことは……」

 ついつい質問攻めをしてしまう。

 しばらく黙っていた正樹が、そこで口を挟んできた。

「知ってどうするんだよ」

 確かに騙されてしまった事実はもう取り消せない。

 騙し取られたお金を返してもらえるとも思っていない。

 ただ……

「中絶した子供の父親ってことでしょ……」

 もう何度目かの、二人のアイコンタクト。

「姉ちゃん、もういいだろ?」

 正樹の低い声にたじろいだ。

 どうして止めるの?

 私はただ、自分のことが知りたいだけなのに。

 どうしてそんなに、私に知ってほしくないの?

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