スカーレット

 ギュ……

 勝彦の腕が、少しだけ強く私を引く。

 やめてよ、ただでさえ胸が苦しいのに。

 彼はいつもの優しい声で問いかける。

「どうしてそう思うの?」

 イエスかノーか、はっきりどちらかで答えてほしかった。

 質問を質問で返すなんて、反則よ。

 だったら私も、質問で返す。

「私たちが付き合い始めた日って、いつ?」

「先月の上旬だよ」

「何月何日?」

「8月の5日くらいかな」

「……嘘よ」

「どうして?」

 それを私に説明させるの?

 酷な人……。

「あたしね、8月6日に中絶の手術をしてるの」

「え……?」

 これから話すことを聞いても、どうか私のことを嫌いにならないで……。

 そういう願いを込めて、お腹にある彼の腕を包むように抱きしめた。


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