スカーレット
「ほら、リンゴ好きだったでしょ?」
剥き終わったリンゴが紙皿に乗って差し出された。
「ありがとう」
かじりながら、私は自分の情報を集める。
「あたし、どうしてこの病院に来たの? 三日も眠ってたんでしょ?」
母は困ったような顔をして、私から視線を外した。
「事故に遭ったのよ」
リンゴの皮を剥いたナイフの片付けなどをしながら軽くそう告げる。
「どこもケガなんてしてないみたいだけど」
「そうじゃないのよ。ほら、ガス。ガスが漏れちゃってて、中毒だったの」
言葉を詰まらせていたが、それからはペラペラと話し始めた。
「仕事から帰ってきた正樹が気付いてね、すぐ救急車を呼んでくれて。命があっただけ儲けものよ。正樹がまっすぐ帰ってきてくれてよかったわ」
なるほど。
それで外傷はなかったのか。
「ねえ、お母さん」
お母さんと呼ぶのに、少し抵抗を感じた。
「なに?」
「あたし、お腹いっぱい」