スカーレット
「この同意書に書かれた署名が、正確な情報だとは限りません」
「どういうことですか?」
「つまり……なんと言いますか。女性の欄には、確かにあなたの名前が記載してあります。手術を受けられるご本人ですから、ごまかしようがありません」
言っている意味がわからない。
しかしそこで質問はせず話の続きを聞いた。
「ですが、男性の欄に関しては、いくらでも嘘をつけるんです」
「は?」
いくらでも嘘がつけるって、そんなの同意書の意味がないじゃない。
そんな心理を表情から読み取ったのか、院長はバツの悪そうな顔をした。
「本当の父親の名前でなくても受理されます。もっと言えば実在しない名前でも受理されます。実在しない住所でも電話番号でも、同様です。相手の男性の信用調査などは、行っていないんです」
「そんなのって……この書類に意味はないじゃないですか」
院長は無言で首を振った。