ヤバいくらいに溺れてる
仕事に夢中なガキに、あたしの気持ちなんて一生わからないわ

何をしたらいいのか…何がしたいのかわからない人の気持ちなんて、理解できないでしょうね

あたしと陽向が、口を閉じて間もなく、あたしの携帯が大音量で鳴り出す

ベッドの上にある携帯を、素早く手に取ると2コールめで電話に出た

「あーはいはい」

『俺、今日ヒマなんだけど、どう?』

聞きなれた男の声が、あたしを誘う

「どう?」って聞いているのはデートの誘いじゃない

ホテルにいけるかどうかを問う質問だ

「給料日前なんじゃないの?」

『まあ、そうなんだけど。彼女に仕事が入っちゃって。ホテル予約したんだけど、無駄にしたくないっていうか』

彼女といちゃつこう計画が駄目になって、体がつらいってことね

「わかった。じゃあ、迎えに来て」

『了解! 面倒くさいから、下着はつけてくんなよ』

男は明るい声で、電話を切った

あたしもクスッと笑いながら、携帯をベッドの上に置こうとした

ぐいっと顎を掴まれたあたしの視界には、悪魔の申し子?と聞きたくなるような怖い顔をしている陽向があたしを睨んでいた

「電話の人、誰?」

「あんたには関係ない……」

「ある。マネの仕事を放棄されちゃあ、困るんでね」

「上田さんっていう人…ていうか、あたし、マネの仕事を引き受けるって言ってないし。決めてない」

「何度言えばわかる! あんたの了承など必要ない。これは決定事項であり、文句は受け付けないって言っただろ」

「なんで? あたし、バイトだけど」

「職場に入れば、バイトだろうが正規の職員だろうが関係ない」

「なに、それ…」

「それが仕事ってもんだろ」

「ガキに教示されたくないんだけど…ていうか、あんたと言い争いしている時間が勿体ない。早く用意しなくちゃ」

あたしは立ち上がると、部屋に備え付けてあるクローゼットの前に立った

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