ヤバいくらいに溺れてる
「あれ?」

部屋には誰もいない

文句の一つでも言ってやろうと意気込んで、ユニットバスから出てきたのに、室内には人の気配が全くなかった

おかしいなあ

玄関のドアが開く音が聞こえなかったのに…それともあたしが気づかなかった?

まあ、どっちでもいいや

あいつがいないなら、空気が澄んでるわ

さっさと絨毯のシミをとって、出かけないと上田さんに申し訳ない

さっさと抱かれてお小遣いを貰って、帰ってこようっと

あ、それとも上田さんにブランドバックでも買ってもらおうかな?

洋服でもいいなあ

どうしようかな?

あたしを抱いた代金として貰えるお金で、なにを買おうか想像を巡らせていると、アパートのドアが開いた

ベストを羽織って外に行っていた陽向が、長い足を動かして靴を脱いだ

「あれ? まだワンピース着てたの?」

「は?」

あたしは雑巾を手に、ユニットバスに戻ろうとすると、陽向が不思議そうな顔をして立っていた

「上田さんって人、もう帰ったよ」

「え?」

あたしは眉をひそめると、陽向の顔を見つめた

「あんた、なんかしたの?」

「別にぃ。俺の指で、立てなくなっちゃったみたいだから、もう少し待ってあげて…って言ったら、怒って帰ったよ」

「はあ? なんてことをしてくれたのよ」

あたしの臨時給料っていうか、ささやかなお小遣いを勝手に奪わないでよ

「親切に教えに行ってあげただけだろ? 自分は恋人以外の女を抱くくせに、キャパの狭い男だよな」

けらけらと陽向が笑った

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