ヤバいくらいに溺れてる
「あのさ、電気消して」

背を向けたまま、陽向がつぶやいた

「あーはいはい。消しますよ」

あたしは立ち上がると、電気を消した

部屋が真っ暗になる

何なのよ、もう

上田さんと会ってたら、ふかふかの柔らかいベッドでゆっくりと眠れたのに!

こんな堅い床の上じゃなくて、寝心地の良いベッドで、温かい布団の中で、ぐっすりと寝れたはずだったのに

ワンピースを脱ぐ気力もなく、あたしはベッドのすぐ横にあった座布団を枕にして身体を丸めた

余計な布団はウチにはないのよ!

ガキが布団とベッドを使ったら、あたしが風邪をひくじゃない…ってモデルが風邪をひいて、撮影に穴をあけるよりはいいのね

…ていうかさあ

陽向って人気のあるモデルじゃん

お金だって稼いでいるわけでしょ?

なんでわざわざ一人暮らしの女の家に転がり込んでるわけ?

もっと良い環境のホテルとかさあ、ありそうじゃない?

ホテルにいけないほど貧乏な稼ぎじゃないでしょ?

たとえ自分で払えなくても、父親が稼いでるじゃない

父親のお金で、どっかに泊まりなさいよ

「ちょっと、あたし…思うんだけど」

「あんたの意見は聞かねえよ」

「聞きなさいよ」

「聞かねえよ。どうせロクな考えじゃねえだろ」

「失礼ね。なんでホテルに行かないのよ」

「はあ? 俺の勝手だろ」

「そうね。でも女の一人暮らしの部屋に転がり込んでくるなって失礼よ」

「失礼ねえ。あんたのマネの仕事を少しでも楽にしてあげようとしてる俺の努力を感じないわけ?」

「なに、その恩着せがましい態度は」

「恩着せがましく言ってんだから、そう聞こえてもらわないと困る」

がばっとあたしは身体を起こすと、布団をかぶっている陽向の背中を叩いた

「くそガキっ、いちいち煩いのよ」

「煩くさせてんのはあんただろ? 寝かせろよ」

「寝かせないわよ」

「ほぉ…寝かせてくれないんだあ。どんなことをして、俺を寝かせないのかな?」

ばさっと布団が動く音が聞こえると、暗闇の中で、あたしと陽が睨みあった

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