ヤバいくらいに溺れてる
「許さねえっつったら、許さねえんだよ。あんたは俺のマネをしてろ」

「なんでそう上から目線なわけ? あたしが好きなら好きって言いなさいよ。好きじゃないなら、あたしが何をしようと勝手でしょ! 部屋を使ってもいいけど、あたしのやることにいちいち文句つけないで頂戴」

「素直になれよ」

「そっちが…でしょ! あたしはいつだって素直で可憐で、とっても可愛い、思わず抱きしめたくなるような女よ……うぉ?」

一階の非常階段の扉の前で、あたしは陽向に抱きしめられた

きつくて、腕が痛い

な…何?

何が起きてるのよ

「ああ、確かに。思わず抱きしめたくなるような女だ。悲しそうな目で、強がって…不安定な心のくせに、甘えてこない。俺があんたを好きだと思ってたのかよ? ふざけんな。自惚れるのもいい加減にしろ」

ほら…やっぱりね

桜嗣さんの見込み違いよ

あたしが陽向みたいなガキに好意を寄せられるわけないじゃない

ただの性の対象者でしかないのよ

ガキは所詮、ガキなのよ

「俺はあんたを好きじゃねえ。愛してんだ」

あたしは陽向の胸の中で、小首を傾げた

「は?」

寝不足なあまり、あたしは一瞬でも、夢の中に落ちたのだろうか?

「なに?」

あたしは顔をあげると、陽向の顎を見つめた

少し伸びた陽向のひげが目に入る

「二度、言うつもりはねえよ」

あたしを突き飛ばすかのように、陽向があたしの肩を押して距離を開けた

喉を鳴らして、意味もなく肩を回しながら陽向はラブホのロビーへと足を動かした

『愛してる』って言った?

なんで? 意味がわからないんだけど

「あたし、あいつに何かした?」

それとも何か悪いものでも食べたのだろうか?

女モデルの水筒の中に、惚れ薬でも入ってた?

ああ、それなら女モデルと恋に落ちるか

んー、やっぱ変なものを食べたのかもしれない
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