ヤバいくらいに溺れてる
もしかして…こいつは『愛している』という意味を理解していないだけかもしれない

そんな気がする

なぜなら『愛している』女性に対して、こんな仕打ちをするだろうか?

「なんで玄関のドアにチェーンをかけてるのよっ! あたしが入れないじゃない…てか、この部屋の家主はあたしであって、あんたじゃないでしょ」

ドアのロックを外して、部屋に入ろうとしたのに、チェーンのせいで扉が数センチしか開かない

ガンっと鳴った音と、開かないドアの抵抗にあたしは苛ついた

「入りたいの?」

玄関に近づこうともしない陽向が、しれっとした顔で答える

テーブルの前でリラックスした態勢で座っている陽向が物凄く憎らしく見えてくる

「は…『入りたいの?』じゃないわよ! ここはあたしの部屋っ! あんたが勝手に居候しているだけでしょ」

ドアの隙間に唇を突っ込むと、あたしは怒鳴った

「あれ? 俺が出ていくまで帰らないんじゃなかった? 俺、出ていくつもりないし」

「どうでもいいけど、チェーンを外しなさいよっ。恥ずかしいじゃない。ストーカーで通報されたら、どうするのよ」

「ストーカーって言うより、不審者で通報されるね。間違いなく」

「なら、ここを早く開けなさいっつうの」

「イヤだね」

なに、その態度!

「くそガキ、開けろ」

「もっと可愛くお願いできないの?」

「うるさい!」

「五月蠅くわめいてるのは、そっちだろ」

「ああ、ああ、そういう態度ですかっ。ふうん、いいわよ。そっちがその気なら、あたしにだって考えがあるんですから」

あたしはドアを閉めると、わざとらしく靴音を鳴らしてドアから遠くへと歩いてく

途中で、ヒールの靴を脱ぐと、裸足で身を低くしてドアの横にぴったりとくっついた

息を殺して、ドアチェーンが開くのを待つ

「何してんの?」

頭上にある窓がガラリと開くと、陽向の冷たい声が脳天に突き刺さった

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