ヤバいくらいに溺れてる
「なんでバレてんのよ! あたしが男のところに行くと勘違いして、急いで外に出てきなさいよ」

あたしの発言に、陽向の眉間に皺が寄り、険しい顔つきになった

「ああ?」

「『ああ?』じゃないわよ」

「ほんと、馬鹿だよねえ」

窓から顔を出した陽向が、哀れな顔であたしを見てきた

「馬鹿とか言わない。第一、あんたがあたしの家からあたしを閉め出すのがいけないんでしょ! あたしの部屋よ。あんたのじゃなくて、あたしの部屋っ。あたしが家賃を払ってんの」

「その家賃を払う金を稼いでるは、誰だろうなあ」

「うっ…」

あたしは、言葉を失った

確かに稼いでるのは、陽向かもしれないけど…ここの住人として記録されているのはあたしだ

なのにどうして、あたしは寒空の下で無残に放置されないといけないのよ

「寒い?」

「ええ、寒いわよ。鼻水がどばーって出ちゃうくらい寒し、おしっこが漏れるくらい寒気がするわ」

「はあ……なんでそこで『寒いから、入れて。温めてほしいの』くらい言えねえんだよ」

陽向が呆れた声をあげると、窓を閉めて鍵をかけた

ちょ…え? どういうこと?

本当に閉め出す気?

あたしは窓を叩こうとすると、チェーンが外れる音がした

あ…開けてくれたの?

がちゃっとゆっくりとドアを開けてくれた陽向の顔を確認するなり、彼を押しのけて室内に入った

「おしっこ! 本当にやばいんだからっ」

あたしは靴を放り投げると、ばたばたとトイレに向かった

「本当に、色気のねえ女」

「うるさいわね! 酒を飲んでるんだから尿意を催しやすいのよ」

「はいはい」

「…ていうか、覚えてなさいよ! 部屋の主を閉め出した罰は、絶対にさせるんだから」

トイレの中であたしは叫ぶ

ドアの向こう側で「ふう」と息をついている陽向に、あたしは怒りを感じた

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