ヤバいくらいに溺れてる
すっきりしたあたしは、ユニットバスのドアを開けると、心晴れ晴れな気分で、陽向を睨みつけた

「罰は何にしようかしら…って、ちょっと! 何、勝手に寝てんのよ」

陽向は早々と、ベッドに横になってあたしに背を向けていた

「あ? 寝るんだよ」

「だからなんで」

「夜も更けりゃ、誰だって寝るだろ。人間の身体は陽が落ちれば、眠くなるようにできてるんだよ。それに逆らう必要はねえだろ」

「ちょっとは逆らないなさいよっ! ガキなんだから、夜更かしに興奮しなさいってば」

「イヤだよ、面倒くせえなあ」

「…てか、またあたし、床で寝るの?」

陽向がひらひらと手を振って、ばたんと布団の上に落とした

ああ、そうですかっ

あたしに床で寝ろ、と

愛している女性を床に寝かせるわけですか

ふうん、絶対、こいつは『愛している』の意味を間違えて覚えているに違いない

「ベッドがいいなら、入ればいいだろ」

「シングルに二人で? 有り得ない」

「なら床で寝ろよ」

「なんで? あんたが床で、あたしがベッドよ」

「恋人同士になったらな」

「はあ?」

あたしは腹筋に力を入れて、反発した

「今、俺とあんたの関係はモデルとマネっていう関係だ。なら、マネはモデルのために生活を犠牲にし、俺に尽くす。俺がモデルとしてより良い仕事ができるように、な。あんたが俺の恋人になれば、俺は彼女のために尽くす。だが、あいにく俺はフリーなんでな。尽くす相手がいない」

あたしの顔を見て、にこっと笑うと陽向は電気にちらっと視線を動かした

「はいはい、電気を消せばいいのね。ごゆっくりお休みあそばせ。モデルの陽向さん!」

荒々しく電気を消すと、真っ暗な室内であたしは横になった

薄い座布団を枕のかわりにして、身体を丸くした

『彼女のために尽くす』ねえ…ガキにできるのかしら?

尽くす陽向も見てみたいものだわ

何をどう尽くすのか…気になるっつうの

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