ヤバいくらいに溺れてる
真っ暗な部屋の中で、突然ギシッと鳴る音にあたしは目が覚めた

すぐにベッドが軋む音だと気づく

まだ外は暗い

陽向が起きるには早すぎる時間だと思う

あたしは薄目を開けて、室内の様子を窺おうとすると、ばさっと身体に温かい物がかかった

え? 羽毛布団と毛布?

あたしがいつも寝るときに使っているかけ布団が、あたしの身体にそっと掛けられるのがわかった

陽向の甘いコロンの匂いがあたしの鼻を刺激する

足音をたてないように陽向がベッドに戻ると、なにもかけずに横になった

ちょっと、言ってることとやってることが違うじゃない

マネはモデルのために生活を犠牲にするんじゃなかったの?

これじゃあ、陽向が風邪をひくじゃない

撮影に影響したら、どうするのよっ

まったく、何を考えてるのよ

あたしはがばっと起き上がると、陽向の背中をばしっと叩いた

「あんたの愛情表現って、微妙でわかんないのよっ」

「うるせーな。黙って寝てろ」

「風邪ひくじゃん」

「そっちがくしゃみしたんだろ」

「してないわよ」

「寝てて、気付かなかっただけで、咳とくしゃみをしてたんだ」

「だから微妙なんだって。その表現が方法が! 好きなら好き。一緒に寝たいなら、寝たいって言いなさいよ」

「うるせーよ」

「あっそ。ならありがたく布団を借りますよぉ」

あたしは布団を肩までかけると、座布団に頭を戻した

「借りるって言うのはおかしいわ。もともとあたしの布団なんだから」

「あんたも一言多いんだよっ!」

「うるさいわね」

「……いよ」

ぼそぼそっと小さな声が聞こえた

「は?」

あたしは身を起こすと、耳を陽向のほうに傾けた

「……ぉいよ」

「何? もっと大きな声で言ってよ。男ならはっきり言いなさい」

「ああ、うるせえな。もういいよ」

陽向が拗ねて、あたしに背を向けた

『こっち来いよ』

ちゃんと聞こえていたよ

あたしは掛け布団を手に持つと、ベッドに腰を下ろした
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