ヤバいくらいに溺れてる
輝く男と哀れな女
『俺は学校に行ってくるから、あんたは事務所で俺の荷物の整理をしておけ』

…って、あんたの荷物って、ファンレターのことかいっ!

段ボール3箱に、ぎゅうぎゅうに押し込められているファンレターを目の前にしたあたしは、一気にやる気をそがれた

読む気しないし…整理ってこの量をどうしろって言うのよ

あいつに来たお手紙なんだから、あいつが責任もって整理すればいいじゃん

「あなたのことが好きです」っていう熱い気持ちを、文字に込めて紙にしたためたのよ

マネが見るなんて、許されないわ…ってあたしは思うけど、違うのだろうか?

「駄目だぁ。やる気がでない」

事務所の倉庫部屋になっている片隅で、あたしは段ボールを見つめながらしゃがみこんだ

「よくもまあ…あんな奴を好きになるよねえ」

あたしは指先で、段ボールの箱をツンツンと突きながら呟いた

『俺は、付き合ってる女にしか下の名を呼ばないって決めてるんだよ。特別な相手しか、名を呼ばない。それが好きな女に対する礼儀だと思ってる』

昨日の夜に言われた言葉を思い出す

「まあ、真面目なヤツなのかもしれないけど、さ」

いや、待てよ

愛している女を閉め出すような男だぞ!

「あ、そういえば、閉め出した理由を聞くのを忘れてた。あたし、なんで閉め出されたんだろう。自分の家なのにっ」

昨日の閉め出しを思い出し、むかっと腹が立ったあたしは、立ち上がると段ボールを蹴った

「…つうかさあ。なんでホテルに乗り込むかなあ。おまえはあたしの旦那かっ!」

足を開いたあたしは、ラブレターの山に手を突っ込んだ

がさっと奥まで入った手に痛みが走った

「いたっ…何?」

勢いよく手をひっこめたあたしは指先から流れ落ちる赤い血を見つめた

「は? なんで切れてんの?」

ぱっくりと切れている指先を見つめたあたしの背後で、「きゃあ」という悲鳴が聞こえた

「はい?」

あたしが振り返ると、社長が真っ青な顔をして立っている

「心愛ちゃん、大丈夫? 早く手当てしないとっ」

「え? いや…」

平気ですから、という返事を言えないまま、あたしは社長に腕を引っ張られた

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