ヤバいくらいに溺れてる
「俺、不真面目なヤツって嫌いだから。ここに住むのは、利便上、仕方がないことで、別にあんたのこと好きじゃねえ」

少年は、スニーカーのつま先をトントンと蹴って靴を履くと、ドアを開けて出ていった

ばたんとドアが閉まると、キッチンの上にある小窓に少年が遠ざかっていく影が見えた

は? 何がどうなってるわけ?

なに、今の言われよう……

あたしのほうが年上だよね?

なのに、偉そうな態度は何なのよ

「かるーく振られた? 告ってもないのに…しかも年下のガキに」

しっかりと閉まっている玄関をドアを見つめたまま、少年に言われた言葉を思い出して苛ついた

「『好きじゃねえ』って初対面のあたしに対して、言う言葉か! ああ、そうですか! そちらさんがそういう態度なら、いいですよぉ。ご勝手にあたしを嫌いなさいっていうのよ。あたしもあんたみたいなくそガキに興味の欠片もございませんっつうのよ」

あたしは振り返ると、ベッドに向かって歩き出す

途中、少年が置いていったスポーツバックに足を引っかけて、派手に転んだ

気に入って買ったガラステーブルの角に額をぶつけたあたしは、このときばかりは、テーブルが憎らしく感じ、手の平で叩いてやった

「もう! ガキの私物、邪魔!」

足でスポーツバックを蹴り飛ばすと、部屋の隅に追いやった

「イチゴのパジャマ、可愛いじゃない! この良さをわからないガキに、でかい面、されたくないわ」

ふんっと鼻を鳴らしながら、もう一度バックを蹴った

「あ…でも、あたしのお給料を払ってくれているお方でもあるのよねえ」

蹴って折れ曲がったスポーツバックの前に、膝をついて座ったあたしは、丁寧に鞄を持ち上げて、綺麗な格好にしてからバックを床に置いた

「一之瀬様のお荷物は、丁重に扱わないとね。あたしのバイト代がかかってるしぃ…」

スポーツバックを撫でながら、あたしは少年の小憎たらしい笑みを思い出すなり、ばしっとバックを殴った

「アホらしっ! 所詮、15のガキに何、血迷ってるのよ。あたしは3歳も年上なのよ…もう少しで4歳の差になっちゃうけどっ…まあ、細かいことはいいわ。とにかく年下の男に、でかい面されたくないのよ」

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