ヤバいくらいに溺れてる
「彰吾さんが、教室にずかずか入ってきて俺を引っ張ってきたんだよ。『怪我』ってぼそっと呟いてさ。母さんから連絡があって、手当てすりゃあ平気だろってっつったのに。車の中では、まるで俺のせい…みたいな勢いで紫音さんに怒られるし。何なんだよ! 俺のせいかよ」

陽向が不機嫌な声で、言葉を吐きだすとずかずかと社長室に入って、ソファに座った

「俺の手紙ってさ。ファンレターだけかと思ったら、大間違いだぞ。みんながみんな、俺を好きだと言っている奴らばかりじゃない。俺と一緒に仕事をしたモデルのファンからのやっかみだってくるんだ。封筒の中にカッターが入ってるのだってあるし、血文字で脅迫してくるようなのだってある。そういう仕分けをするのが、マネの仕事なんだよ」

陽向が腕を組むと、ふうっと息を吐いた

「もう行くからな。血で汚れた箇所はきれいにしたから。手紙には一切触れるな。他の奴にやらせる」

「学校?」

「当たり前だろ!」

陽向が立ち上がると、大股で社長室を出て行った。

「なんだ。心配して来てくれたわけじゃないんだ」

あたしはぼそっと呟いた

ちょっと嬉しかったのに、なあ

心配して駆けつけてくれたのかと思って「愛してる」って本当なんだって思えたのに

全然、違ったみたい

彰吾おじさんに連れられてきただけかあ

「心配してるわよ。素直じゃないんだから」

社長がにこっと笑う

「そうでしょうか? 頭ごなしに怒りをぶつけられたような…」

「心と言葉が裏腹なのよ。あの子…」

困った子ねと、社長が肩をすくめる

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