ヤバいくらいに溺れてる
心配されてる気がまったくしないんだけど

あたしはアパートに帰ってきた陽向をじっと見つめた

テーブルの前にどっかりと座って、むすっとした表情で勉強をしている

ぱっと見た感じ、ちょっと怒ってそうで怖い

たぶん怒っているのか、不機嫌なのか…って思うけど、そんなに怖いオーラを出さなくてもいいと思わない?

狭い空間で、苛々している人がいると、こっちまで伝染してくるっていうか、びくびくしちゃうよ

物音ひとつたてちゃいけない…みたいな気分にならない?

何をするにも、相手の目が気になっちゃって、なにもできない

「…んだよ」

「はい?」

ベッドで寝転がって雑誌を読んでいるふりをしていたあたしは、陽向の声にびくっと反応した

「だから…なんだよ」

「何が?」

「さっきからチラチラと俺のほう見てきて、気持ち悪いんだけど」

「ああ…そっちが怒ってるからじゃん」

「怒ってねえよ」

「ほら、怒ってる。声のトーンも言葉づかいも怖い」

「悪かったな。いつもこんなんだよ」

「違うよ。仕事のときと全然違うもん」

陽向は「はあ」と息を吐き出すと、手に持っていたシャーペンをノートの上に置いた

「あのさ。仕事とプライベートは違うだろ、普通」

「それでも不機嫌すぎるよ」

「悪かったな。俺はいつもこんなんだ」

「あたしが仕事ができなくて怒ってるんでしょ。何もできないから、呆れてるんだ」

「あのなあ、どこどう思って勘違いしてるか、わからねえけど。俺は怒ってないし、不機嫌でもねえよ」

陽向が、テーブルに肘をついた
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