ヤバいくらいに溺れてる
「あっそ。じゃ、いい」

あたしは、ベッドの上でごろりと身体を回転させて、背を向けた

「何が『じゃ、いい』んだよ。意味がわからねえよ! 怒ってんのってそっちだろ。何一人で不機嫌なんだよ」

「別に不機嫌じゃないし!」

「はあ」とため息のような息を吐く音がすると、ぎしっとベッドに新たな重みが加わった

陽向が、ベッドに座ったのだ

「語尾に力が入ってる。明らかに不機嫌だろ。言ってみろ。何をそんなに怖がってる?」

「え?」

『怒ってる?』じゃなくて『怖がってる?』って何?

「怖がってなんか…」

「何が怖い? 何もできないからって俺はあんたを見捨てたりしないし、呆れたりもしない」

「あ…」

そっか

あたし、陽向に何もできない女って思われたくないんだ

そう、思われたくない

何もできなくて、何の取り柄もない女って思われたくない

『何の取り柄もねえ女を恋人にしたいと思うかよ』

昔の言葉がフラッシュバックする

好きな人に言われた

言われて、すぐに押し倒された

『エッチは興味があるから、いいだろ』って

『俺が好きなら、嬉しいだろ』って言われて、無理やりだった

気持ちが悪くて、好きな人のはずなのに、獣に見えた

あのときの男の荒い鼻息、生温かい手が、今も忘れられない

そうか

あたしは、誰かに「何もできない女」って思われたくないんだ

だから、どこかでセーブをして、一生懸命になることを恐れた

必死にやっても、できないって思われたくなくて……



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