ヤバいくらいに溺れてる
足を前に出すと、またスポーツバックを蹴った

ボスっと鳴るのと同時に、ガシャンと何かが割れるような音がした

「え? ウソ…割れ物も入れてあるのぉ? やめてよぉ…そういうの入れておくの! 宅配みたいにさあ、『ワレ物アリ注意!』みたいなシールを見えるところに貼っておきなさいよ」

あたしは、スポーツバックから離れるとベッドに座った

「あたしじゃないわよ。ガキが、どっかで割ったのよ」

事実を頭の中で捻じ曲げていると、あたしの携帯が大きな音で鳴りはじめた

「ひゃあ」

あたしは驚くと、携帯を探した

床に落ちている携帯を握ると、液晶を見つめた

あれ、社長からだ

「も…もしもし?」

『ああ、心愛ちゃん、体調悪いのにごめんねえ。もう少ししたら、大荷物を陽向が来ると思うの』

ゆったりとした口調で、事務所の社長でもあり、陽向の母親・一之瀬莉緒(いちのせ りお)が口を開いた

「あ…もう来ました」

『ええ? もう行ったの?』

『ほらな。陽向はせっかちだから』と社長の後で、男の声が聞こえた

たぶん、陽向の父である一之瀬桜嗣(いちのせ おうじ)だろう

桜嗣さんは、現役のモデルで海外でも活躍中だ

格好良くて、見ているだけで癒される男だ

あのくそガキは、二人の子とは思えないほど、怒りのツボを刺激するけどっ

『じゃあ、もうご迷惑を?』

「え? あ、いや、そんなご迷惑だなんてえ」

すんごい迷惑だった!

あたしのパジャマ姿を見て、笑うやつは初めてよ!…ってか、すっぴんでパジャマ姿を見られた男自体、あいつが初めてなんだから

考えただけで、苛々してくる
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