甘い夏  煙草の匂い



「あ~!龍がいたぁ!」


部屋に入ろうと鍵を持ち直した時、まったりとした声で呼ばれた。


「あぁ?百合子?」


いかにも上機嫌な百合子と、数歩後ろから着いてくる監視者…進也。


「何っ回も電話したんだよぉ?ずっとシカトだったから、直接来ちゃった。」

「は?電話?」


着信音なんか全然聞こえなかった…。ポケットを探るが、携帯がない。


「あ、やべ…」


真那の部屋に忘れてきたか…。


「どぉしたの?」

「いゃ、携帯忘れてきた…。」

「えぇ~?どこにぃ?」

「真…」


言いかけて、進也の顔をチラッと見る。



「真那んちか…」

「あ、いゃ…」

「ったく。曲作ってたんじゃなかったんか?」

「作った!ほとんど出来上がった!ホント。」

「へぇ。すごいじゃん、龍太ぁ。」

「おぅ!だろ?」


百合子をダシにして、進也のイヤミから逃げる。


腹式呼吸のようなため息をつきながら「ったく…」と言って諦めたようだ。



…よしよし。




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