甘い夏  煙草の匂い



真那の部屋の前まで来て、明かりがついている事にホッとする。


― コンコン ―


「え?あ…はい…?」


突然の訪問者に、驚きを丸出しにした返事。


「俺。いきなりで悪い。ケータイ忘れたかも。」


「え?上杉さん?」


俺と認識してからもすぐにはドアを開けてくれず「えっと、えっと…」と何か悩んだ後に「よし、これで…」と意気込んでからそっと開けてくれた。


「こ…こんばんは。」


髪の毛が濡れている。蒸し暑い部屋の中からシャンプーのいい匂いが溢れてきた。


…風呂上がり…ヤバい。長居すると理性を失うかも…。さっさと携帯を回収して帰ろう。

なるべく真那の方を見ないようにし、携帯を探す。


「ドコ?見なかった?」

「えぇ?わからなかったです。鳴らしてみますね?」



― ♪♪ ―



真那専用の着信音が、何かに埋もれた所で聞こえる。


「こっちか?」


窓際の…俺が座っていた座布団の辺りを探る。


「あった…」


真那に携帯を見せようと振り向いた時、一際大きな音をたてて、雷がなった。




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