甘い夏 煙草の匂い
「はぁっ…は…」
「大丈夫か?どこも…」
「…うおぉ!」
真那に気を取られていると、和室にあったテーブルが飛んできた。
「うわ!」
咄嗟に真那の頭を抱え、身を低くすると、テーブルは頭上を飛んでって、ぶつかる事は免れた。
「うわっ…!何?今の音…龍太?!」
廊下から進也の声がする。しかし、蝶番を壊し反対側から開けたドアは、進也側からの通行を妨げていた。
すかさず開いた方から逃げた男は、反対側の階段から降りて行った。
「進也!今出てったヤツ捕まえろ!」
「どうした?」と聞く前に、条件反射で来た方の階段を駆け降りる進也…。
…頼む!捕まえてくれ!
「真那…真那?」
腕の中でガタガタと震えている。急いで手首の拘束を解いてやる。
真那の手首を縛っていたものは…どこにでも売っているビニール紐だった。
白いビニール紐が、僅かに血が滲んで赤く染まっている…。
「あ…あ…」
力なく両手を俺に預けているが、まだ震えは止まらない。