甘い夏  煙草の匂い



ボロボロと涙が止まらない。

…ついでに、口元からヨダレも出てくる。タオルを強く押し込まれていたせいもあるだろう。


「…もう大丈夫だから…」


必死で拭ってやるが、次から次へと溢れてくる、真那の恐怖心の証。

ふと気付くと、真那の両手が少しだけ持ち上がっていた。しかし、その両手はどこへ行くでもなく、体のどの部分よりも震えている。


「…真那?」


そっと両手を持ち上げるみる。


「…もしかして、手ぇ上がんない?」


「…うぅっ…」


目をギュッとつぶって、さらに泣き出した。


無理もない…手首を腰の後ろで縛られたうえ、男に馬乗りにされたんだ…。抵抗しようと必死になって、筋肉を痛めたんだろう。


…あぁ、クッソ!進也に会う前に、ここに直行していれば…!!



「真那…ごめんな?もっと早く迎えに来てれば…」



しばらくの沈黙の後、小さくフルフルと首を振る真那。



「いい、無理するな…ホント…ごめん…」


俺から真那に近づき、そっと頭を撫でてみる。




< 140 / 206 >

この作品をシェア

pagetop