甘い夏 煙草の匂い
「…う…あぁ…」
さらに泣き出す真那の顔を両手ではもう拭いきれず、俺のシャツで拭えるよう、胸元に顔を埋めさせた。
「…はあっ…はあ…」
外から進也の声が聞こえてきた。
「捕まえたか?」
「わりぃ…逃した…。
クソッ!…あの野郎…!」
そう言うと、進也は隣の部屋のドアを、勢いよく開けて侵入していった様子だった。
「…?進也?」
薄い壁からは、力任せに部屋を捜索しているのが響いてくる。
…真那の部屋はこっちだぞ?
しかし、明らかに様子が変だ。
「悪い…ちょっと見てくる…」
真那の体からそっと離れ、両手を優しく膝の上に置いた。
「どうした?何で隣に…?」
興奮した状態で、部屋を物色し続ける進也。「あっ」と何かを見つけ、一層険しい表情を見せる…。
「…アイツ、ここのヤツだよ…」
「…は?」
「見た事なかったか?アイツの顔。」
…ない。
何度もこのアパートには来てるが、実際に顔を合わせた事はなかった。
「…っあの変態!」