甘い夏 煙草の匂い
トイレから出ると、真那がビクッとした様子で立っていた。
「…いゃ、もう襲わないから安心しろ。」
「…ホントですか?」
…やっぱり疑っていたのか。
「ホントホント。」
…今日はね。
「へぇ。これが真那の部屋かぁ。」
キョロキョロしながら和室にも足を踏み入れる。
片付いてる…と言うよりは物がなく、殺風景な部屋だった。
テレビ・扇風機と小さな折りたたみテーブル、窓際に小さめの観葉植物がある位で、余計な物は出ていない。
エアコンもない部屋は蒸し上がっていた。
「あつ…窓開けていい?」
「あっ…雨が入ってきちゃうんで…扇風機でお願いします。」
「うそ!?」と耳を疑ったが、申し訳なさそうに言う真那を見てると、何も言えなくなってしまった。
「ってゆーか、なんで社長ん家で暮らさないの?結構デかい家住んでんだから、部屋も余ってるんだろ?」
わざわざこんなボロアパートに住む意味がわからない。
確か事務所の近くの1件家に住んでいるはず。元家政婦のシゲさんも掃除に通っていた。
「鈴木社長の家は大きいから大変よぉ」と言っていたのを覚えている。