甘い夏  煙草の匂い




「やっ…!」

「こうしてれば、顔が見えないだろ?」


さっきよりも抵抗を見せてこない。…すでに呆れているのかもしれないけど…。



「特に真那に何かしてほしいわけじゃないんだ。

…そりゃ、メシ作ってとかは言うけど…。」

真那の頭をゆっくりと撫でながら、耳元で囁くように話した。


「俺は…俺達は、ただ真那に笑って欲しいんだ。」

「え…?」

「真那はいつも気ぃ使ってるような顔をしている。

でも、よく見てると、コロコロと表情が変わってカワイイんだ。

時々見せる笑顔も…すごく好きなんだ。」

「そ…そんなっ…」


小さくフルフルと首を横に振る。







「真那に笑ってほしい…ただ、それだけなんだ…。」







精一杯、優しく囁いてから、真那の顔の正面に向き合う。


瞬きを忘れたかのように、焦点が定まらなく小刻みに揺れる瞳。


視線を絡めとるように真っ直ぐ真那の瞳を見つめ続けると、ようやく焦点が合い始めた。



それでも尚、フルフルと小刻みに首を横に降り続けている。





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