甘い夏 煙草の匂い
「真那?」
名前を呼ぶと、さらに強く首を横に振る。
「…どうした?」
大粒の涙をボロボロと溢しながら、軽く俺を睨む。
「何も…」
ゆっくりと視線を外しながら、小さく呟いた。
「何も…私の事…知らないじゃないですか?」
「何も…って?」
「全部…です。」
そりゃあ…知り合ったばかりだし?
「もし…私が悪い人だったらどうします?」
「へ?」
「ホントはスッゴい悪い人で、上杉さん達を騙そうとしてたら…どうしますか?」
…真那の言いたい意味がわからない。
「なんで?騙そうとしてんの?」
「や…してませんけど…。」
「なんでそんな事言うんだ?」
「…。
…ごめんなさい。頭が混乱してるかも…。」
小さくため息を吐きながら、肩の力がゆっくりと抜けて行くのがわかった。
無理もないか…。今日はちょっと飛ばし過ぎたか?
「真那…今日は疲れたろ?もう帰るから、ゆっくり休め。」
ホントは帰りたくない…もう一度、自分家に連れて帰って、閉じ込めておきたい…離れたくない。
真那の頭を撫で、長い髪の毛を一束すくった。