甘い夏 煙草の匂い
「何で、そう思うんですか?」
進也が問う。
「あの子は…今まで普通の幸せというものを知らずに来た。
そりゃ、両親が亡くなる前は普通に幸せだったんだろう。
しかし、一番多感な時期に、趣味・進学・友人…全てを奪われてきたんだ。
これからは、普通の幸せを大事にしてほしいんだ。」
ゆっくりと話し終え、煙草の火を消す。
「んじゃ、仕事なんかさせてないで、学校に入れてやったらいいんじゃないですか?」
やたら質問責めにする進也。今日はなんだか珍しい…。
「私もそう言ったんだが…。真那がそれじゃ嫌だと言ってね。
働かないとお金を返せない。今さら学校にも行きたくないと言われたよ。」
新しい煙草を取り出し、ぼんやりと見つめていた。
「『金なんか返さなくていい』と言ったのに…
『それじゃあ私がこれから生きていく目標がなくなってしまいます!』
…とまで言われたよ。
それ以上は何も言えなくてね…。」
そう寂しそうな顔をする社長。
その顔は、まさしく父親の顔だった。