甘い夏 煙草の匂い
「じゃあ、せめて一緒に暮らしたらいいんじゃないすか?あんなボロアパートに住まわせてないで…。」
したかった質問を、進也が先にしてくれたので、俺は話す事がなくなってしまった。
グラスの中の氷が溶けて、水になっている。
その水を飲み干すと、僅かにコーヒーの味がする。
「それはもっともだ…。私も出来るなら、傍に置いておきたいよ…。」
「やっぱ、それも真那が…?」
頷く変わりに、煙と一緒に大きな溜め息を吐く社長。
「『私が住んでたら、娘さんが遠慮してしまいます』…ってな。
ったく…“娘”が遠慮してどうする?…なぁ。」
…確かに、真那が言いそうなセリフだ。
「…もっと普通のアパートがあったでしょう?なんでこんなプレハブ小屋みたいな所に…。」
送られてきた写真を見ながら、進也がダルそうに問いかける…。
ホント、どうしたんだ?今日の進也は…。隠しきれない怒りのようなオーラが滲み出ていた。
「近いうちに取り壊されるから、格安だった…からだろ?」
「え?」
さすがにこの情報は知らなかったらしく、驚いた顔で俺の方を見た。