甘い夏 煙草の匂い
誘拐犯・上杉容疑者
― 時刻は23時14分 ―
携帯をパタパタしながら、電話すべきかどうか迷っている。
…もちろん、真那に…。
栄四郎の帰る宣言で、いつもより早く終わった飲み会。
本当は俺が送り役だったのに、結局各々で散ってしまった。
「時間が空いたんだけど」…なんて言う時間でもないし…。
でも…声が聞きたい。
今日、何してた?ちゃんとメシ食ったのか?
昨日キスした唇が、真那の感触を覚えている。
掌は、真那の肩の細さを覚えている。
明日には、この感触も薄れてしまうのか…?
そんな事を考えていたら、手の中の携帯から「プップップッ…」と聞こえてきた。
やべ、発信しちゃった?誰に?
表示を確認すると、真那だった。
やべぇ…寝てるか?
すると、2コールほどで愛しい声が聞こえてきた。
「あ…もしもし?」
寝てはいなかったようだ。
「もしもし、真那?悪ぃ…こんな時間に。寝てたか?」
「いえ…大丈夫です。」
確かに眠そうではないが、元気がない。