あたしが眠りにつく前に
納得などできなかった、けれども根底である幼馴染としての関係が心地良くて。思われていることが安心できて、いつしかそれが自然に溶け込んでいって‘日常’となった。疑問に思わなくなって、甘え縋り寄った。
一人の人間の人生を狂わせて見ないふりをしてきた大罪人は、罰せられなくては。でも彼にはできないだろう。だから自分が、せめて彼を時は無くては。罰はきっと、彼のいない日々によって下されると思っていたのだから。
「やっぱり馬鹿は死ぬまで治らないってことか。いや、死んでもかもな。本当に、学習能力の無い。まさか、ここまでとは」
帆高が大きく息を吸い、畳の擦れる音がした。
「一人で勝手に考え込んだあげく、出した結果を正しいと決め付けて突き通す。猪の血でも流れてるのか? 人間だって言うんなら、何のために言葉があると思ってるんだ? 人の気持ちは他人には分からない、だから声に出して伝えて知ってもらおうとするんだろうが。俺が嘘を吐いたことがあったか? 俺自身のことを形にした俺の言葉を信じないで、軽薄な自分の思い込みを信用するなんて、そんな間抜けな話があるか!」
最後の鋭い一括に背筋が伸びる。珠結の腕を掴んでいた手が離れ、俯いていた顔へと回される。固定され、逃げ場所が無くなってしまう。
「俺はお人好しなんて柄じゃない。それくらいは分かるよな、幼馴染なんだから」
珠結はかろうじてコクコクと頷く。
「周囲は勘違いしてるけど、あいにく俺は誰かのために生きるのは性に合わない人間だ。どんなことも、できなくはないからしてるだけで深い意味はない。本当はどうでもいい。でも自分のしたいと思うことは、どんなことをしてでも遂げてみせる。何をしてでも。自分の意に反することを指示されたら従うかなんて…ハッ、論外」
「…堂々と言うことじゃないでしょ、それ」
「俺は俺がそうしたいと思うから、そうするだけのこと。したくないと思えば絶対にしない、どうでもいい奴の‘ため’に自分の大切な何かを差し出すなんて、冗談じゃない。…まだ分からないか? 俺にとって、お前は自分がその‘どうでもいい奴’なんだって思ってたのか? お前が自分のせいでって勝手に思い込んでたことは皆、俺自身のためにしてたんだ」
頬を打たれたような心地だった。自分にとって帆高が特別だったように、帆高にとっても自分は特別な存在だった。分かっていたようで、分かっていなかった帆高のこと。
「事故のことを聞いた時、俺がどんな思いをしたか。知るわけないよな。別にいいんだ、それは。ただ、すごく怖くなった。当然あるものと思ってた‘明日’がこんなにも簡単に崩れてしまうものなのか。命って、思うよりも容易く消えようとしてしまうものなのかって。…はは、俺の方がまいった」
帆高は投げやりに嘲笑う。
「もう、俺はあんな思いをしたくない。俺のいない所で、失うかもしれなかったなんて」
消え入りそうな声がしたところで、珠結の肩に帆高の頭が預けられた。顔は見えない、けれども分かる。魔眼は失われても、あの眼が。ガラスのように粉々に砕けてしまいそうな、脆くて不安定な。それは珠結が最も望まない、絶望の瞳。
一人の人間の人生を狂わせて見ないふりをしてきた大罪人は、罰せられなくては。でも彼にはできないだろう。だから自分が、せめて彼を時は無くては。罰はきっと、彼のいない日々によって下されると思っていたのだから。
「やっぱり馬鹿は死ぬまで治らないってことか。いや、死んでもかもな。本当に、学習能力の無い。まさか、ここまでとは」
帆高が大きく息を吸い、畳の擦れる音がした。
「一人で勝手に考え込んだあげく、出した結果を正しいと決め付けて突き通す。猪の血でも流れてるのか? 人間だって言うんなら、何のために言葉があると思ってるんだ? 人の気持ちは他人には分からない、だから声に出して伝えて知ってもらおうとするんだろうが。俺が嘘を吐いたことがあったか? 俺自身のことを形にした俺の言葉を信じないで、軽薄な自分の思い込みを信用するなんて、そんな間抜けな話があるか!」
最後の鋭い一括に背筋が伸びる。珠結の腕を掴んでいた手が離れ、俯いていた顔へと回される。固定され、逃げ場所が無くなってしまう。
「俺はお人好しなんて柄じゃない。それくらいは分かるよな、幼馴染なんだから」
珠結はかろうじてコクコクと頷く。
「周囲は勘違いしてるけど、あいにく俺は誰かのために生きるのは性に合わない人間だ。どんなことも、できなくはないからしてるだけで深い意味はない。本当はどうでもいい。でも自分のしたいと思うことは、どんなことをしてでも遂げてみせる。何をしてでも。自分の意に反することを指示されたら従うかなんて…ハッ、論外」
「…堂々と言うことじゃないでしょ、それ」
「俺は俺がそうしたいと思うから、そうするだけのこと。したくないと思えば絶対にしない、どうでもいい奴の‘ため’に自分の大切な何かを差し出すなんて、冗談じゃない。…まだ分からないか? 俺にとって、お前は自分がその‘どうでもいい奴’なんだって思ってたのか? お前が自分のせいでって勝手に思い込んでたことは皆、俺自身のためにしてたんだ」
頬を打たれたような心地だった。自分にとって帆高が特別だったように、帆高にとっても自分は特別な存在だった。分かっていたようで、分かっていなかった帆高のこと。
「事故のことを聞いた時、俺がどんな思いをしたか。知るわけないよな。別にいいんだ、それは。ただ、すごく怖くなった。当然あるものと思ってた‘明日’がこんなにも簡単に崩れてしまうものなのか。命って、思うよりも容易く消えようとしてしまうものなのかって。…はは、俺の方がまいった」
帆高は投げやりに嘲笑う。
「もう、俺はあんな思いをしたくない。俺のいない所で、失うかもしれなかったなんて」
消え入りそうな声がしたところで、珠結の肩に帆高の頭が預けられた。顔は見えない、けれども分かる。魔眼は失われても、あの眼が。ガラスのように粉々に砕けてしまいそうな、脆くて不安定な。それは珠結が最も望まない、絶望の瞳。