あたしが眠りにつく前に
「永峰さん、例えがおかしい。イトコは親戚なんだから」

「だってイトコって血縁関係あっても、結婚できるでしょ。まぁ、兄弟と例えちゃってもいいけど、香坂さんは一人っ子だから現実的じゃないでしょ。あたしにとって、帆高はそんな感じ。血が繋がってる感じで、恋愛対象内に見てないよ。幼馴染って、そんなもん」

 だからといえ、彼女は抜けていると思う。この分だとかなり先になりそうだ。絵里菜は呆れつつも、不思議な気持ちだった。

「一之瀬君のことは別にしてでも、早く良くなって戻ってきてね」

「あたしの復帰か、二人がくっつくか、どっちが先に実現するかな。あ! 勝負って、これでいいんじゃない?」

「永峰さんっ!!」

 もしも戻れたその時は、「ただいま」と彼女のクラスに押しかけよう。きっと「おかえり」と返してくれる。そして、もっとたくさん話そうか。出会うきっかけはゴタゴタしていても、終わり良ければ全て良し。下の名前で呼び合える仲になれたら、なんて。淡い期待に胸を焦がすのも、悪くはない。


 ◇◇◇

「…でね、やっぱり香坂さんはかわいかった! なんていうか…女神と天使を足して2で割って、さらに姫要素をプラスした感じ?」

「杉原といい、そっち系に走るなよ」

 文庫本片手に、帆高は胡散臭そうな視線を送ってきた。本人にとっては前日の、帆高にとっては1週間前の出来事を、珠結は興奮状態でまくし立てていた。

「珠結の例えはさておき、あいつはいいヤツだからな。誰もやりたがらない仕事だって、進んでやるし。中学の時から、そうだった」

 帆高にはガールズトークの内容を話していない。帆高も覚えてるよ、きっとバラのことも。あと、寝てたから見てはいないけど、コーヒーゼリーおいしかったんだって。新学期になったら、直接お礼言うみたい。良かったね。

「何ニヤニヤしてるんだよ、不気味。ところで、それ。病院には似つかわしくないもの、広げてるのな」

 恋の見守り役のほんわかとした気分から一転、ズドンと突き落とされる。

「勉強熱心なのは感心だけど、ここでやるようなものじゃないんじゃないか。…こんな雑誌、よく売ってたな」

「あたしもそう思った」

 里紗のお見舞い品だよ。珠結が告げたところで、二人して空を見る。

「嫌ならやめればいいだろ」

「やめたら、負けた気分になるじゃん。それに物は物だけど、里紗が少しでも眠気が紛れるようにってくれたんだし。最後までやりたくなるよ」

 もう、珠結の睡魔を抑える術は無くなった。薬でさえも効かなくて、医者にもどうすることもできない。生命を維持するため、たまに栄養補給の点滴を打つぐらいしか、残っていない。

抵抗すら、できやしない。眠るまいと抗おうとする気持ちは多大なストレスとなり、脳に負担をかけていた。何が起きてもおかしくなく、いつ危険な状態になりかねない。眠気を感じたら、素直に身を任せる。医師の診断は、極めて残酷だった。

いくら集中していても、眠気は訪れて連れ去られてしまう。従うしかないのだ。里紗には間を置いて、さりげなく伝えようと思っている。
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