あたしが眠りにつく前に
ギャハハとノイズのボリュームが跳ね上がる。周囲の不快指数も上昇の一途を辿る。思うこと自体が不謹慎でも、どうせ言うのなら家に帰ってからにしてくれ。非常にやばい、誰が? ここまで来ると、彼らが。
「珠結、離せ」
殺気が駄々漏れている人間を解き放つなど、殺人幇助と変わらない。珠結は死んでも離すかと掴む手に力をこめるも、やすやす引き剥がされてしまった。ああ、せめて口だけに抑えて。本気の魔眼を発動しないで。冗談じゃなく、心臓は止まる。
「はい、そこまで」
惨劇の起きる3秒前。戦場一歩手前のこの地に、白衣の天使がとうとう舞い降りた。
「元気があるのはいいことだけど、時と場所を弁えることはできないの? 脳みそがちゃんと詰まってて、年相応にシワが刻まれてたら、そのくらいは分かるわよね。それとも貴方達は体だけお先に成長した、学習能力が未発達の乳飲み子さんなのかしら? ううん、それは失礼ね。遡れば厳しい生存競争に勝ち抜いた、栄誉あるオタマジャクシさん達なんだもの。何て例えたらいいか…教えてくれない? 自分のことだから、それぐらい分かるでしょう?」
訂正。白衣に身を包んだルシファーが降臨した。
歯切れのいいキビキビとした声。目の前で仁王立ちする音源は、シワ一つ無い白衣とナースキャップがよく似合っている。一見すると恰幅のいい、これまた普通の優しげなおばさんなのに、浮かぶ笑顔の凄まじさは言うに尽くせない。
ギャップも足されてのの迫力に押されて威勢はどこへやら、青年達は凍り付かせて水面に上がってきた金魚のように口をパクパクさせる。そして次第に「こいつが一番…」「俺は何も言ってない」「ふざけるな」と、仲間割れが勃発しだす。
「‘喧嘩両成敗’って言葉は知ってるわよね? 義務教育の中学校で習うから聞くまでも無いだろうけど、貴方達の行動から判断して改めて確認しておくわ。なんでも一昔前はお互い切腹ってのも珍しくなかったみたいよ? 良かったわね。平和主義を掲げて基本的人権の尊重が認められている、この時代に生まれてきて」
堕天使の周りの空気は、見える人が見たら彼女自身が醸し出す威圧オーラのためにドス黒いだろう。
「す、すみませ…」
「そうそう。それだけ元気が有り余ってるなら、ぜひ献血に協力してくれるとありがたいわね。私の知人に針をぶっ刺す人がいるんだけど、今度その人に頼んで特別に出血サービスするよう、お願いしとこうかしら。もしどこか調子が悪くなっても、ここに来て私を指名してくれれば、いつでもご期待に応えるわよ。首を長ーくして…」
マッテルワ。彼女はいつの間にか注射器を掲げていた。針の先には鋭い光が宿る。
「うわあああああ!!!」
劈く悲鳴と行き以上に大音量の足音が、彼方へと遠ざかっていく。一人取り残された患者の青年は呆然としていたが、彼女と目が合うなり「すみませんでした!」と毛布を引っ被った。
「珠結、離せ」
殺気が駄々漏れている人間を解き放つなど、殺人幇助と変わらない。珠結は死んでも離すかと掴む手に力をこめるも、やすやす引き剥がされてしまった。ああ、せめて口だけに抑えて。本気の魔眼を発動しないで。冗談じゃなく、心臓は止まる。
「はい、そこまで」
惨劇の起きる3秒前。戦場一歩手前のこの地に、白衣の天使がとうとう舞い降りた。
「元気があるのはいいことだけど、時と場所を弁えることはできないの? 脳みそがちゃんと詰まってて、年相応にシワが刻まれてたら、そのくらいは分かるわよね。それとも貴方達は体だけお先に成長した、学習能力が未発達の乳飲み子さんなのかしら? ううん、それは失礼ね。遡れば厳しい生存競争に勝ち抜いた、栄誉あるオタマジャクシさん達なんだもの。何て例えたらいいか…教えてくれない? 自分のことだから、それぐらい分かるでしょう?」
訂正。白衣に身を包んだルシファーが降臨した。
歯切れのいいキビキビとした声。目の前で仁王立ちする音源は、シワ一つ無い白衣とナースキャップがよく似合っている。一見すると恰幅のいい、これまた普通の優しげなおばさんなのに、浮かぶ笑顔の凄まじさは言うに尽くせない。
ギャップも足されてのの迫力に押されて威勢はどこへやら、青年達は凍り付かせて水面に上がってきた金魚のように口をパクパクさせる。そして次第に「こいつが一番…」「俺は何も言ってない」「ふざけるな」と、仲間割れが勃発しだす。
「‘喧嘩両成敗’って言葉は知ってるわよね? 義務教育の中学校で習うから聞くまでも無いだろうけど、貴方達の行動から判断して改めて確認しておくわ。なんでも一昔前はお互い切腹ってのも珍しくなかったみたいよ? 良かったわね。平和主義を掲げて基本的人権の尊重が認められている、この時代に生まれてきて」
堕天使の周りの空気は、見える人が見たら彼女自身が醸し出す威圧オーラのためにドス黒いだろう。
「す、すみませ…」
「そうそう。それだけ元気が有り余ってるなら、ぜひ献血に協力してくれるとありがたいわね。私の知人に針をぶっ刺す人がいるんだけど、今度その人に頼んで特別に出血サービスするよう、お願いしとこうかしら。もしどこか調子が悪くなっても、ここに来て私を指名してくれれば、いつでもご期待に応えるわよ。首を長ーくして…」
マッテルワ。彼女はいつの間にか注射器を掲げていた。針の先には鋭い光が宿る。
「うわあああああ!!!」
劈く悲鳴と行き以上に大音量の足音が、彼方へと遠ざかっていく。一人取り残された患者の青年は呆然としていたが、彼女と目が合うなり「すみませんでした!」と毛布を引っ被った。