あたしが眠りにつく前に
「ねぇ、帆高。あたし、恵まれてると思うんだよ。特に人に」

「…何言いだすかと思えば。そこに俺は含まれてるのか」

 わざと目を逸らして見せれば、頬を抓られた。じゃれ合う子供のような攻防を繰り広げながらも、珠結は実感する。

‘優しい王子様がいてくれるから、心強いわね。眠り姫ちゃん?’

 自分を心配してくれる人がいて。愛してくれる人がいて。守ってくれる人がいて。取り巻く人の優しさに包まれて、狭まった世界の中でも笑っていられる。それは、なんて幸福なことか。

睡魔に取り付かれたこの身体は、もどかしくてならない。それでも、その現実を不幸だと嘆く暇も与えられずに生きていられている。皆がいるから、大丈夫なのだ。



「もう一ヶ月になるのに、どうして…っ!!」

「落ち着いてください! 我々にはどうすることも…」



 ますます世界が閉ざされていくことに、なっていっても。



目にも見えず、



転落するように



急激なスピードで、




日常は崩れていく。




それに抗う術を、知らなくたって。
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