あたしが眠りにつく前に
帆高の言うコンプレックスは目つきの悪さ(自称)であり、人が目を見て怯むのは、そのせいだと言い張って聞かない。
よく見れば、つり目ではある。しかし本人が思うほど、さほどきついものではない。激怒した時などは、恐ろしいとしか言えなくなるが。
整った他の顔のパーツと並んでいても、欠点には到底見えない。むしろ少女達の好意の目を引く、魅力ポイントに捉えられる。
バカにする意図があからさまな“寝太郎”と比べたら“デーモン・キラー”など他の呼び名も称号というもので、天と地の差だ。男女問わず尊敬や羨望の眼差しを向けられているというのに、全く気付いていないらしい。無自覚とは罪だ。
そこまで拒絶する必要などないのに、帆高はどうにも呼称をお気に召さない。でもこっちは逆に使わせてもらっている。世間とは違い、ちょっとの僻みとからかいを意図してではある。
「…ちょ、本気で睨まないでよ? 心臓に悪い」
「まだ言うか。だったら止めるぞ、鼓動」
「………」
「んなことできる訳ないだろ。…何だ、その不審感満載の目は」
アクの強い毒舌も鋭い目力も長く接してきたが、目力への免疫は幼馴染の珠結でさえも完全ではない。他人からすれば怯んでしまう僅かな程度の目力には平然としていられるし、別に怒っている訳ではないことも見抜くことができる。
それでも帆高が完全なる怒りの炎を宿した瞳で見つめてきたら、それに耐えられる自信は毛頭無い。
直接向けられたことは無いが、傍で目撃したことは数回ある。傍観者にも拘らず、ゾクリとして身動きが取れない思いがした。
ゆえに今の帆高の発言は素直に冗談として笑い飛ばすことはできない。心臓を止めるという明確な意思によって、本当に心臓を握りつぶされてしまうかもしれない心地がする。
とある有名な詩には、糸屋の美人姉妹は目で殺すとある。この淡白男にも違う意味で可能かもしれない。
「魔眼だなんて、どこのアクション漫画の話だよ。馬鹿らしい。あれか、中2病ってのをこじらせた奴の発想か。高校生だってのに、現実との区別も付いてないのか」
「でもさ、そんな中2病チックな二つ名が付いてる帆高が一番、中2病って感じになるよね」
「……そこの答えは43だ。解き方は自分で考えろ」
「は!? 何で言っちゃうのよ! 過程が肝心なんでしょうが!!」
強い光を宿した帆高の瞳は心を落ち着かなくさせ、惑わせる。時々多少の恐怖や、苦手意識を覚えることもある。それでも目をそらせずつい見つめ返すのは、やはり自分も彼の瞳に囚われた一人だからなのかもしれない。
ゆえに、何よりも恐れている。その瞳が揺らいで、光が掻き曇る瞬間を。それがどんな状況に起きるのかは熟知している。それは―――
よく見れば、つり目ではある。しかし本人が思うほど、さほどきついものではない。激怒した時などは、恐ろしいとしか言えなくなるが。
整った他の顔のパーツと並んでいても、欠点には到底見えない。むしろ少女達の好意の目を引く、魅力ポイントに捉えられる。
バカにする意図があからさまな“寝太郎”と比べたら“デーモン・キラー”など他の呼び名も称号というもので、天と地の差だ。男女問わず尊敬や羨望の眼差しを向けられているというのに、全く気付いていないらしい。無自覚とは罪だ。
そこまで拒絶する必要などないのに、帆高はどうにも呼称をお気に召さない。でもこっちは逆に使わせてもらっている。世間とは違い、ちょっとの僻みとからかいを意図してではある。
「…ちょ、本気で睨まないでよ? 心臓に悪い」
「まだ言うか。だったら止めるぞ、鼓動」
「………」
「んなことできる訳ないだろ。…何だ、その不審感満載の目は」
アクの強い毒舌も鋭い目力も長く接してきたが、目力への免疫は幼馴染の珠結でさえも完全ではない。他人からすれば怯んでしまう僅かな程度の目力には平然としていられるし、別に怒っている訳ではないことも見抜くことができる。
それでも帆高が完全なる怒りの炎を宿した瞳で見つめてきたら、それに耐えられる自信は毛頭無い。
直接向けられたことは無いが、傍で目撃したことは数回ある。傍観者にも拘らず、ゾクリとして身動きが取れない思いがした。
ゆえに今の帆高の発言は素直に冗談として笑い飛ばすことはできない。心臓を止めるという明確な意思によって、本当に心臓を握りつぶされてしまうかもしれない心地がする。
とある有名な詩には、糸屋の美人姉妹は目で殺すとある。この淡白男にも違う意味で可能かもしれない。
「魔眼だなんて、どこのアクション漫画の話だよ。馬鹿らしい。あれか、中2病ってのをこじらせた奴の発想か。高校生だってのに、現実との区別も付いてないのか」
「でもさ、そんな中2病チックな二つ名が付いてる帆高が一番、中2病って感じになるよね」
「……そこの答えは43だ。解き方は自分で考えろ」
「は!? 何で言っちゃうのよ! 過程が肝心なんでしょうが!!」
強い光を宿した帆高の瞳は心を落ち着かなくさせ、惑わせる。時々多少の恐怖や、苦手意識を覚えることもある。それでも目をそらせずつい見つめ返すのは、やはり自分も彼の瞳に囚われた一人だからなのかもしれない。
ゆえに、何よりも恐れている。その瞳が揺らいで、光が掻き曇る瞬間を。それがどんな状況に起きるのかは熟知している。それは―――