あたしが眠りにつく前に
校門を出てすぐの交差点を渡り、教師の目が届かない距離にある電信柱の前で、帆高は立ち止まる。いつも決まって3本目、それを合図に珠結は自転車の荷台に座る。しかし帆高はサドルに座らず、再び自分の足で地面を踏んで前に進む。
一見、恋人同士のような風景。周囲を歩く学校帰りの生徒達は気に留めず、それぞれ恋人や友人との話に花を咲かせる。
「ねー、帆高。明日、体育あったよね?」
「ああ、4限にな。ったく、よりによって昼前のこの時間に体育持ってくるとはな。少しは生徒の気持ちになって時間割考えろって…」
「じゃあさー、久しぶりに賭けしない? どっちがたくさん活躍できるか、点取るかの競争でさ」
すると、帆高は不思議そうな顔で見下ろしてきた。
「何? 何か問題あった?」
「いや、明日で種目交代だろ。俺はバスケで珠結はテニス。俺は問題無いけど、そっちは本当にいいわけ?」
はた、と珠結の表情が固まった。問題、大アリだ。珠結は昔からラケットを使った球技が苦手だった。布団たたきに網を張った小さな面で、よくもまあボールを器用に当てて遠くに飛ばせるというものだ。
テニスの場合、十本中半分が空振り。せっかくラケットに当ててもゴンという鈍い音を出してネットに無残に引っかけるか、見当違いの方向に飛ばしてしまう。
あわわと口をパクパクさせる珠結に、帆高は不敵な笑みを向ける。
「やめるか? ま、これだと珠結には無理があるもんな」
「ちょっと! まだあたしが負けるって決まったわけじゃ…」
「ふーん、分かった。その賭け乗った。珠結はいつものあれだろ? じゃ、俺は12万で手を打つってことで」
「な…!? あたしのはコンビニで120円出せば買えるのよ? なんできっかり1000倍の値段を吹っかけてくるのよ!!」
「やっぱり勝つ自信無いんじゃん。はいはい、取り消しな」
珠結はキっと顔を上げるも、帆高はすでに正面を向いていて後頭部しか見えない。きっとやれやれと呆れたように笑っているに違いない。
「うーーー! 帆高の鬼!!」
「バカ!! 動くな!!!」
足をバタバタ動かして暴れた珠結に、自転車を引っ張っていた帆高は歩みを止めて雷を落とした。荷台の上に横向きに座っていた珠結は、怒鳴り声に怯みながらもホッと安堵する。自分で起こした振動のはずみで危うく落ちそうになったからだ。
でもそんなに怒鳴らなくてもと言い返そうとするも、道の反対側で買い物帰りと思われる主婦がクスクスと笑っていた。まるで幼稚園帰りに母親に叱られた園児じゃない。珠結は火を噴出しそうなぐらい赤く火照った頬を押さえて今更のように俯いた。
一見、恋人同士のような風景。周囲を歩く学校帰りの生徒達は気に留めず、それぞれ恋人や友人との話に花を咲かせる。
「ねー、帆高。明日、体育あったよね?」
「ああ、4限にな。ったく、よりによって昼前のこの時間に体育持ってくるとはな。少しは生徒の気持ちになって時間割考えろって…」
「じゃあさー、久しぶりに賭けしない? どっちがたくさん活躍できるか、点取るかの競争でさ」
すると、帆高は不思議そうな顔で見下ろしてきた。
「何? 何か問題あった?」
「いや、明日で種目交代だろ。俺はバスケで珠結はテニス。俺は問題無いけど、そっちは本当にいいわけ?」
はた、と珠結の表情が固まった。問題、大アリだ。珠結は昔からラケットを使った球技が苦手だった。布団たたきに網を張った小さな面で、よくもまあボールを器用に当てて遠くに飛ばせるというものだ。
テニスの場合、十本中半分が空振り。せっかくラケットに当ててもゴンという鈍い音を出してネットに無残に引っかけるか、見当違いの方向に飛ばしてしまう。
あわわと口をパクパクさせる珠結に、帆高は不敵な笑みを向ける。
「やめるか? ま、これだと珠結には無理があるもんな」
「ちょっと! まだあたしが負けるって決まったわけじゃ…」
「ふーん、分かった。その賭け乗った。珠結はいつものあれだろ? じゃ、俺は12万で手を打つってことで」
「な…!? あたしのはコンビニで120円出せば買えるのよ? なんできっかり1000倍の値段を吹っかけてくるのよ!!」
「やっぱり勝つ自信無いんじゃん。はいはい、取り消しな」
珠結はキっと顔を上げるも、帆高はすでに正面を向いていて後頭部しか見えない。きっとやれやれと呆れたように笑っているに違いない。
「うーーー! 帆高の鬼!!」
「バカ!! 動くな!!!」
足をバタバタ動かして暴れた珠結に、自転車を引っ張っていた帆高は歩みを止めて雷を落とした。荷台の上に横向きに座っていた珠結は、怒鳴り声に怯みながらもホッと安堵する。自分で起こした振動のはずみで危うく落ちそうになったからだ。
でもそんなに怒鳴らなくてもと言い返そうとするも、道の反対側で買い物帰りと思われる主婦がクスクスと笑っていた。まるで幼稚園帰りに母親に叱られた園児じゃない。珠結は火を噴出しそうなぐらい赤く火照った頬を押さえて今更のように俯いた。