あたしが眠りにつく前に
「お前はどうすんだよ。俺がヒイヒイ言ってるのを高見の見物か?」
「そんな悪趣味なことしませんよ。吸い物の準備もありますし、米を炊かないと。でも先輩が手伝ってくださるから時間もあるし、今ある材料なら炒飯でもいけますね。先輩も炒飯いかがです?」
「…料理の腕といい人使いといい、飴と鞭の加減といい。お前、良いオカンになれるよな。お前が女なら、嫁に来いって宣言してるぜ」
「せめて主夫と言ってください。俺だって相手を選ぶ権利ぐらいありますよ。自分の手持ち金も管理できない借金まみれの人が伴侶なら、人生泥舟コースまっしぐらじゃないですか。じゃあ、生地は寝かせないといけないんで、30分後ぐらいに来てくださいね。お待ちしてます」
ヘイヘイと口を尖らせながら、彼は自炊室を出て行った。ぶつくさ言えども、必ず戻ってくることだろう。毎日工場で大量生産された既製品のパンよりも、野郎が作ったといえ温かくて栄養の調った手料理の方が魅力的に思えるはずだ。
生地をラップで包み、具と一緒に冷蔵庫に入れる。さて、吸い物の具はどうしようか。買ってきた激安豆腐と乾燥ワカメと残しておいたネギでいいだろうか。
いや、彼にはしたことのない料理をさせるのだ。苦労した分、できた料理に期待されても困る。出血サービスで、春雨と炒飯の残りの卵も少し入れてみるか。
豆腐以外の具を食べる直前に投入する段階まで終わらせ、次は米を研ぐ。作り置きの分も合わせて、結構な量を炊く。お代わりし放題と勘違いされても困るので、食事の前に冷凍作業も済ませておかなくてはならない。
炊飯器にセットし、後は時間を見て炊飯ボタンを押せばいい。さて、炒飯の具はどうしたものか。考えあぐねていると、ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。
「はい、一之瀬ですが?」
語尾が疑問系になったのは、冷蔵庫の中を見ながら取ったので表示画面を確認しなかったからだ。しかしこの着信音は登録済みの番号にしか設定していないため、相手は見知った人物なのは間違いない。
「よ。久しぶり、一之瀬。元気にやってる?」
「…ああ、お前か。まあまあ、って所か。そっちは、どうなんだよ。彼女と喧嘩でもしたのか? 塚本」
冷蔵庫の扉を閉じ、もたれかかる。数ヶ月ぶりに聞く陽気な声は変わらない。聞くまでもなかったかと自己完結しかけたのだが、
「そこまではいってないって! 冗談にならないし、今ちょっとやばいんだよ。ただでさえ遠距離で、お互い何かと忙しくて電話もメールもできなくてすれ違ってばっかりでさ。もう2ヶ月も会ってないんだよ? この前やっと電話が繋がったの時、彼女何て言ったと思う? 『明日も早いから長々と話せない。毎日メールしてこないで。電話も週に1度でいいでしょ』ってさあ…」
思いがけず的を射てしまったらしい。
「サバサバした人だな、彼女。お前と面白いほど対照的で笑えてくる」
「笑い事じゃないんだよ! …あいつ、他に好きな奴できたのかなあ? 俺捨てられるんじゃ…」
「そんな悪趣味なことしませんよ。吸い物の準備もありますし、米を炊かないと。でも先輩が手伝ってくださるから時間もあるし、今ある材料なら炒飯でもいけますね。先輩も炒飯いかがです?」
「…料理の腕といい人使いといい、飴と鞭の加減といい。お前、良いオカンになれるよな。お前が女なら、嫁に来いって宣言してるぜ」
「せめて主夫と言ってください。俺だって相手を選ぶ権利ぐらいありますよ。自分の手持ち金も管理できない借金まみれの人が伴侶なら、人生泥舟コースまっしぐらじゃないですか。じゃあ、生地は寝かせないといけないんで、30分後ぐらいに来てくださいね。お待ちしてます」
ヘイヘイと口を尖らせながら、彼は自炊室を出て行った。ぶつくさ言えども、必ず戻ってくることだろう。毎日工場で大量生産された既製品のパンよりも、野郎が作ったといえ温かくて栄養の調った手料理の方が魅力的に思えるはずだ。
生地をラップで包み、具と一緒に冷蔵庫に入れる。さて、吸い物の具はどうしようか。買ってきた激安豆腐と乾燥ワカメと残しておいたネギでいいだろうか。
いや、彼にはしたことのない料理をさせるのだ。苦労した分、できた料理に期待されても困る。出血サービスで、春雨と炒飯の残りの卵も少し入れてみるか。
豆腐以外の具を食べる直前に投入する段階まで終わらせ、次は米を研ぐ。作り置きの分も合わせて、結構な量を炊く。お代わりし放題と勘違いされても困るので、食事の前に冷凍作業も済ませておかなくてはならない。
炊飯器にセットし、後は時間を見て炊飯ボタンを押せばいい。さて、炒飯の具はどうしたものか。考えあぐねていると、ズボンのポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。
「はい、一之瀬ですが?」
語尾が疑問系になったのは、冷蔵庫の中を見ながら取ったので表示画面を確認しなかったからだ。しかしこの着信音は登録済みの番号にしか設定していないため、相手は見知った人物なのは間違いない。
「よ。久しぶり、一之瀬。元気にやってる?」
「…ああ、お前か。まあまあ、って所か。そっちは、どうなんだよ。彼女と喧嘩でもしたのか? 塚本」
冷蔵庫の扉を閉じ、もたれかかる。数ヶ月ぶりに聞く陽気な声は変わらない。聞くまでもなかったかと自己完結しかけたのだが、
「そこまではいってないって! 冗談にならないし、今ちょっとやばいんだよ。ただでさえ遠距離で、お互い何かと忙しくて電話もメールもできなくてすれ違ってばっかりでさ。もう2ヶ月も会ってないんだよ? この前やっと電話が繋がったの時、彼女何て言ったと思う? 『明日も早いから長々と話せない。毎日メールしてこないで。電話も週に1度でいいでしょ』ってさあ…」
思いがけず的を射てしまったらしい。
「サバサバした人だな、彼女。お前と面白いほど対照的で笑えてくる」
「笑い事じゃないんだよ! …あいつ、他に好きな奴できたのかなあ? 俺捨てられるんじゃ…」