あたしが眠りにつく前に
「飛躍しすぎじゃないか? 高校2年間だって、学校違っても何事も無くやってきたんだろ。却ってそのくらい淡白な方が、遠距離恋愛に向いてると思うぞ。離れてて無性に不安になって毎日『会いたい』って泣きながら電話攻撃したり、寂しいからって他の男に走って開き直ったりするような女よりも断然良いだろ」
「浮気はともかく…泣きながら電話ってのは羨ましいかも。それだけ俺への気持ちが強いってことなんだから。彼女にはさ、俺達が相思相愛なんだって確信できるアクションをしてほしんだよ。禁断を犯してでも愛し合うロミオとジュリエットみたいな、熱いラブラブ感が不足してるっていうか…」
「お前、顔に似合わず重い人間だったんだな。あのなあ、実際されると精神的にくると思うぞ。思いつめないで彼女みたいに割り切った方が、気楽じゃないか。変にギクシャクもしないだろうし。大学卒業したら同棲するとか互いに近くに就職するとか、一緒にいられる方法もある。今は将来に向けて試されてるんだって、前向きに考えろよ」
塚本の彼女とは今の今まで会ったことは無いままだ。帆高は塚本の携帯電話の待ち受け画面に設定されているツーショットの写真と惚気話から、彼女の人物像を想像せざるを得ない。
そもそも彼女持ちが彼女がいたことのない人間にぼやくことが甚だ間違っている。同じ大学の彼女持ちの友人にでも膝を詰めて相談しろ。まさか弟の名門高校合格騒動のように、友人全員に触れ回ってはいないだろうな。
電波を飛ばす先の恋する青年は、大きく溜息をついた。
「そんな、クールに考えらんないよ。できないから、悩んでる訳で…。一之瀬みたいな完璧人間なら、自分に自身持てて余裕もできるのにな。あと2年かあ、それまで彼女が心変わりしないといいんだけど。俺よりイケメンな奴、彼女の周りにもいくらでも転がってるだろうし」
「あの能天気さは、どこいった。不安が完全に拭えなくても、信じるしかないだろう。お前が好きになった人は、お前を簡単に裏切るような人なのか。彼女だって塚本圭太という、お前そのものを好きになったんだろ。お前が信じなくてどうするんだ」
「そう、だよな。だけどさ、一之瀬が思うほど簡単に割り切れないんだよ。一之瀬も俺と同じ立場になったら…でも一之瀬なら、平気そうだな」
「…ああ、そうだろうな」
スピーカーに当てていた右耳を通って脳へと、単調で乾いた声が突き刺さった。そうしてやっと、塚本は自分の失言に気づいて激しく後悔する。何て残酷なことを。だって彼は…。
「塚本が羨ましい。距離は離れていたって、彼女は‘普通の’日常を過ごしている。暮らす場所も生活も自分とは違っても、同じ世界で生きているんだ。電話やメールをすれば、時間差はあっても返事が来る。声も聞けるし、彼女の想いや今考えていることを知ることもできる。願うだけじゃなくて、会おうと思えば必ず会えるんだ。…俺には、十分すぎるぐらいだ」
「浮気はともかく…泣きながら電話ってのは羨ましいかも。それだけ俺への気持ちが強いってことなんだから。彼女にはさ、俺達が相思相愛なんだって確信できるアクションをしてほしんだよ。禁断を犯してでも愛し合うロミオとジュリエットみたいな、熱いラブラブ感が不足してるっていうか…」
「お前、顔に似合わず重い人間だったんだな。あのなあ、実際されると精神的にくると思うぞ。思いつめないで彼女みたいに割り切った方が、気楽じゃないか。変にギクシャクもしないだろうし。大学卒業したら同棲するとか互いに近くに就職するとか、一緒にいられる方法もある。今は将来に向けて試されてるんだって、前向きに考えろよ」
塚本の彼女とは今の今まで会ったことは無いままだ。帆高は塚本の携帯電話の待ち受け画面に設定されているツーショットの写真と惚気話から、彼女の人物像を想像せざるを得ない。
そもそも彼女持ちが彼女がいたことのない人間にぼやくことが甚だ間違っている。同じ大学の彼女持ちの友人にでも膝を詰めて相談しろ。まさか弟の名門高校合格騒動のように、友人全員に触れ回ってはいないだろうな。
電波を飛ばす先の恋する青年は、大きく溜息をついた。
「そんな、クールに考えらんないよ。できないから、悩んでる訳で…。一之瀬みたいな完璧人間なら、自分に自身持てて余裕もできるのにな。あと2年かあ、それまで彼女が心変わりしないといいんだけど。俺よりイケメンな奴、彼女の周りにもいくらでも転がってるだろうし」
「あの能天気さは、どこいった。不安が完全に拭えなくても、信じるしかないだろう。お前が好きになった人は、お前を簡単に裏切るような人なのか。彼女だって塚本圭太という、お前そのものを好きになったんだろ。お前が信じなくてどうするんだ」
「そう、だよな。だけどさ、一之瀬が思うほど簡単に割り切れないんだよ。一之瀬も俺と同じ立場になったら…でも一之瀬なら、平気そうだな」
「…ああ、そうだろうな」
スピーカーに当てていた右耳を通って脳へと、単調で乾いた声が突き刺さった。そうしてやっと、塚本は自分の失言に気づいて激しく後悔する。何て残酷なことを。だって彼は…。
「塚本が羨ましい。距離は離れていたって、彼女は‘普通の’日常を過ごしている。暮らす場所も生活も自分とは違っても、同じ世界で生きているんだ。電話やメールをすれば、時間差はあっても返事が来る。声も聞けるし、彼女の想いや今考えていることを知ることもできる。願うだけじゃなくて、会おうと思えば必ず会えるんだ。…俺には、十分すぎるぐらいだ」