あたしが眠りにつく前に
餃子製作組の様子を見ると、榊はぐったりとしながらも手先を動かしていた。出来栄えを見れば、予想以上に形の良い餃子たちが皿の上に整列していた。さすが家事歴10年以上の猛者の指導によるものだ。
ボールの残りは半分を切っている。ご飯の冷凍分を作り終わるのと同時ぐらいに、完了するだろう。容器とサランラップを準備していたところで、ブツブツ言っていた榊の矛先が帆高に向けられた。
「だいたいさ。一之瀬が俺にそんななめた態度とるから、後から入ってきた奴らも真似するんだろうがよ」
「いきなり何の言いがかりですか。なら、最初から榊さんの言うなめた態度をとられないような節度ある人間であるよう心がけてください。まあ、俺とこいつは度が過ぎてるとは思いますけど、榊さんの所業を考えれば致し方ないでしょう」
「一之瀬さんの言うことは、ごもっともですね。人が買ってきた名前の書いてあるアイスを、我が物顔で食い散らかす人に節度なんてあるはずもないですよ」
「しつけえよ! だから、悪気は無いんだって! 底に名前が書いてあるの気づかなかったわけで。ちゃんと買い直したんだから恨みっこ無しだろ?」
「底だけじゃなくて、蓋にも名前つきのシールを貼っときました。正当な弁償じゃありませんでしたよ。ハーゲンダッツに雪見だいふくなんて、つり合いません! だいたい自分で買ってきたかどうかを判断できないなんて、どこの痴呆老人ですか。男だって、食い物の恨みは凄まじいんですからね。覚えててください」
大家族の彼もゴーイングマイウェイな姉を持つ帆高も、入寮する前から冷蔵庫に入れる私物に記名をしておくことが習慣として染み付いている。それでもトラブルは起きることもある。
大部分が榊が関係し、帆高は彼対策のために自室に小型冷蔵庫を設置している。それでも入り切らないものは自炊室の冷蔵庫に入れざるを得ない。
最近も寮長に怒られたばかりなのに、もう諦めざるを得ないのかもしれない。とかいう帆高に関してはきつく灸を据えて以来、一度も被害は無い。
「後輩のくせに脅すんじゃねえよ! さっきから生意気なんだよ、お前はっ」
「年上とか年下とか、そんなことにこだわってるから器の小さい人だって思われるんですよ。先輩であることを鼻にかけるなら、少しはお手本になるような姿を見せてくださいよ!」
なんでこの二人は顔を合わせれば、飽きもせずに衝突するのか。冷凍室に保存用の白飯と餃子をしまうと、帆高は出入り口の前に移動する。室内からドアをノックし、二人の注意を引いた。
「なんか熱気がこもって熱いんで、ドア開けますね。この部屋は冷房無いし、窓開けたら虫が入ってくるんで仕方ないですよね。そしたら今の大きさの声なら廊下だけじゃなくて寮中に響いて、人も寮長も集まってくるでしょうけど俺には関係ないですから。どうなるかは知りませんけど、それでもいいならどうぞ続けてください」
ドアを開けても、室外へは一言も飛び出していかなかった。室内の先輩後輩は気まずげにテーブルに目を落として肩を縮ませていた。
ボールの残りは半分を切っている。ご飯の冷凍分を作り終わるのと同時ぐらいに、完了するだろう。容器とサランラップを準備していたところで、ブツブツ言っていた榊の矛先が帆高に向けられた。
「だいたいさ。一之瀬が俺にそんななめた態度とるから、後から入ってきた奴らも真似するんだろうがよ」
「いきなり何の言いがかりですか。なら、最初から榊さんの言うなめた態度をとられないような節度ある人間であるよう心がけてください。まあ、俺とこいつは度が過ぎてるとは思いますけど、榊さんの所業を考えれば致し方ないでしょう」
「一之瀬さんの言うことは、ごもっともですね。人が買ってきた名前の書いてあるアイスを、我が物顔で食い散らかす人に節度なんてあるはずもないですよ」
「しつけえよ! だから、悪気は無いんだって! 底に名前が書いてあるの気づかなかったわけで。ちゃんと買い直したんだから恨みっこ無しだろ?」
「底だけじゃなくて、蓋にも名前つきのシールを貼っときました。正当な弁償じゃありませんでしたよ。ハーゲンダッツに雪見だいふくなんて、つり合いません! だいたい自分で買ってきたかどうかを判断できないなんて、どこの痴呆老人ですか。男だって、食い物の恨みは凄まじいんですからね。覚えててください」
大家族の彼もゴーイングマイウェイな姉を持つ帆高も、入寮する前から冷蔵庫に入れる私物に記名をしておくことが習慣として染み付いている。それでもトラブルは起きることもある。
大部分が榊が関係し、帆高は彼対策のために自室に小型冷蔵庫を設置している。それでも入り切らないものは自炊室の冷蔵庫に入れざるを得ない。
最近も寮長に怒られたばかりなのに、もう諦めざるを得ないのかもしれない。とかいう帆高に関してはきつく灸を据えて以来、一度も被害は無い。
「後輩のくせに脅すんじゃねえよ! さっきから生意気なんだよ、お前はっ」
「年上とか年下とか、そんなことにこだわってるから器の小さい人だって思われるんですよ。先輩であることを鼻にかけるなら、少しはお手本になるような姿を見せてくださいよ!」
なんでこの二人は顔を合わせれば、飽きもせずに衝突するのか。冷凍室に保存用の白飯と餃子をしまうと、帆高は出入り口の前に移動する。室内からドアをノックし、二人の注意を引いた。
「なんか熱気がこもって熱いんで、ドア開けますね。この部屋は冷房無いし、窓開けたら虫が入ってくるんで仕方ないですよね。そしたら今の大きさの声なら廊下だけじゃなくて寮中に響いて、人も寮長も集まってくるでしょうけど俺には関係ないですから。どうなるかは知りませんけど、それでもいいならどうぞ続けてください」
ドアを開けても、室外へは一言も飛び出していかなかった。室内の先輩後輩は気まずげにテーブルに目を落として肩を縮ませていた。