あたしが眠りにつく前に
「すごく、達観してるね。俺と同じ二十歳とは思えないな」

「こうじゃないと務まらないし、俺にはあいつ以外に考えられない。正直、塚本や世間のカップル達が羨ましく思う時もある。笑えるよな、付き合ってもいないし幼馴染でしかないのに。もちろん寂しい。平気じゃないけど、大丈夫なんだよ。いるって事実がある限り、俺は俺でいられるんだよ」

 刹那、全ての表情を消し去った塚本に見据えられた。顔全体と言うよりも瞳だけを重点的に。探られている? 呼びかける前に、塚本はピントをクローズアップした。

「うん、大丈夫ってのは本当みたいだ。安心したよ」

「何度も言ってるだろ。俺のことより、自分と彼女のことを気にかけろよ。また何か起きて、俺のいる寮に突撃して泣きつきでもしたら、縁切りも頭に入れるぞ」

「えー、せめて前日に電話一本ぐらいするよ。一之瀬に見捨てられたら、彼女に振られる並に堪えるだろうからさ」

 何で自分の周りには一癖も二癖もある、こういう類の人間が集まるのだろう。帆高は大学での友人知人の顔を思い浮かべては、即座にかき消した。いや、引き寄せているのか自分の方から近づいているのか。

塚本といるのは楽で、他の友人達に対してよりも素でいられている気がする。だからだろうか、その感覚に味を占めて人間関係の面で、高校時代の延長を図っているのかもしれない。

 ちなみに自分のような面倒な人間は生理的に受け付けないだろう。出会ったことはないから予測でしかないが、9割以上の自信でそう言える。



「一之瀬は昨日こっちで泊まったの?」

 互いの大学生活の話が尽き、プレートはほぼ空に、飲み物も残り僅かになっていた。

「いや。昨日は外せない課外とバイトがあって、今日の六時台の電車でこっちに戻ってきた。塚本は昨日からか?」

「うん。せっかく家族にはお盆に戻ってきたばかりなのに、何しに来たんだって目された。俺の扱い、陽平より酷いんだよ。何でかなあ」

「普段の行いを省みろ、就活に先だって自己分析しとけ。なんだ、家の事情じゃなかったのか。長休みでもない、こんな時期に戻るからには、そうなのかと」

「その、大学の友達に俺の持ってるゲーム貸してくれって言われて、家に置いてきたもんだから取りに来たんだよ」

「それなら、家族に頼んで送ってもらった方が安上がりだろ。頼めないほど、家でのお前の信用は地に落ちてんのか」

「そこまでじゃないけどさ…。たしかに、その手があるよな。う~、昨日頑張って理由考えたのに」

「おい、帰って来てから理由を考えるって何事だよ。人には言えない、後ろめたい事情からじゃないだろうな」

 まさか! ゴニョゴニョ言いながらアタアタする塚本に、帆高は別の意味で頭が痛くなった。嘘がつけない人間であるのは承知だが、二十歳にもなって嘘の一つ吐けなくてどうする。幼稚園児でもできるだろうに。

それが彼の良い所でもあるが、何かといらぬ厄介事を集めそうだ。それでも持ち前の愛嬌で乗り越えそうでもある。

「ホントにやましい理由じゃないから!」

「分かった、もう黙っとけ」

 塚本の皿にただ一つ半分残っていたゆで卵を口に突っ込み、強制的に黙らせる。そういや塚本はゆで卵が苦手だったか、口を押さえてモガモガと悶える。

残さず食べようとする心意気は褒めてやるが、避けて一番最後まで残しておく方が苦痛になるだろうに。苦手なものは真っ先に片付ける派の帆高は、コーヒーを飲み干して口を拭く。
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