あたしが眠りにつく前に
 珠結は首を傾げて記憶の糸を手繰る。そういえば昨日の帰り道、次の曲がり角から出てくる車は何色か、と唐突に持ち掛けた。

帆高は適当に白と答え、珠結はシルバーと予想した。結果、走り出てきたのはシルバーの軽四だった。

 その時確かに「おごって」と言った。だが所詮車の色を当てた程度だからと、冗談のつもりだった。

だからまさか帆高が真に受けて本当におごってくれるなど、思ってもいなくて頭の中に留めてすらいなかった。

「あ~、それでわざわざ探しに来てくれたんだ。それはどうもお疲れ様」

「買って教室に戻ったらいなくなってるし。で、全然戻って来ないし。そんで、まさかと思って来てみたらビンゴ。自分から言い出したくせに手間掛けさせんなよ」

「冗談半分だったからなー。だからって、よくあたしが屋上にいるって分かったね」

「それは勘。そういや俺、昔からかくれんぼとかで珠結の居場所当てるの得意だったな。何でか」

 カシュッ 遠い目をしながら、帆高は持っていたジュース缶のタブを空けた。
黒一色のスチール缶の無糖コーヒーは帆高のお気に入り。珠結にとってのイチゴオレと同じだ。

「でも昨日の勘は外れてたのにねー」

 心の中で呟いたつもりが、実際に口に出てしまっていた。あ、と気づいた時点で口を押さえても遅すぎる。

「…何が言いたい?」

 当然のように、かなりドスのきいた声と睨みが威圧してきた。

嫌味のつもりは無かったと、たとえ弁解しても聞き入れてくれはしない。
言うのは好きでも、言われるのは大嫌い。一之瀬帆高とはそういう男だ。

「あー! なんか運動場、にぎやかだよね~」

 珠結はバッと顔を逸らして立ち上がると、逃げるようにフェンスへと移動した。

 フェンスの上にイチゴオレを置いて運動場を見下ろせば、サッカーをする男子生徒達が楽しげな声を上げて走り回っている。ジャージにわざわざ着替えるのが面倒くさいからか、全員制服姿のままだ。

元気がいいなぁ、と思ってしまう自分はなんてババくさい。彼らとは同級生、または1、2歳しか違わないというのに。

「ところで、何で俺より先に入れてんの?」

 振り返ると、帆高が胡坐をかいて不審感満載の目で見つめてきていた。
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