あたしが眠りにつく前に
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「やっぱりお熱いよねー。もう相思相愛でこっちが焼けちゃうよ~」
さて、こういう場合はどうすればいいのか。おそらく机を挟んだ向こう側には、腹に一物あります的なニッコニコ顔が待ち受けている。
答えは至極簡単。珠結は仏頂面でいちごポッキーをかじり、視線を手元に向け続ける。
ポリポリ。…ペラッ
「……ね~、聞いてるでしょー?」
「あー、うん。聞いてない、聞いてない」
「もぉ! 嘘つき~!!」
相手の少女が机をバンバンと叩いたところで、珠結は読んでいた推理小説からようやく顔を上げた。
「あのさ、あたし一応読書中。今いいトコなのよ、邪魔しないでくれる? それにそういう系の話は耳タコ。あたし達は断じて違う。今までもこれからも、絶対に。…いい加減分かってよ、里紗(りさ)」
目下一番の女友達である杉原里紗は、顎を机に乗せてぶつくされている。しかしどんな表情でも、かわいらしい顔だちの彼女なら絵になってしまう。
童顔のうえ小柄なために実年齢より下に見られることが常で、ちなみに最高記録は二ヶ月前に言われた『大人びた小学六年生』らしい。
何でも三つ下の実の妹と服を買いに行った時、店員に姉妹逆に間違われたとか。人に突然ぶつかって驚かせるイタズラがマイブームな彼女なら、当然かもしれない。
「でもさー。いくら幼なじみだからって、普通昼休みまで逢い引きなんてしないでしょ~。ね、どこ行ってたの?」
机についていた片肘がズルッと滑る。あと2ページぐらいで犯人が分かるというのに。心の中で主人公の中年探偵にしばしの別れを告げて文庫本を閉じ、珠結は頭を抱えて里紗を見据える。
「珠結が教室出てってから、一之瀬君聞いてきたんだよ。『どっか行っちゃった』って言ったら、一之瀬君もさっさと出てっちゃったけど」
「それが? ただ約束を守るために、ご丁寧に届けに来てくれただけじゃない。まあ、ちょっとは驚いたけど」
「だからって、わざわざ探しに行くことないでしょ。同じクラスなんだし、単に珠結が戻って来るのを待てばいい話じゃん」