あたしが眠りにつく前に
「ああ、そうだね。そんで、最初の頃はみんなで冷やかしたり煽ったりしてたよね。でも当人達はどこ吹く風で、しかも会話はよく聞けば口ゲンカみたいなノリ。色気もムードも無いったらない」

「二人が一緒にいるのも、ネボスケで問題児な珠結を保護者な一之瀬君が面倒見るのが主旨だって分かってきたし。結局あの二人はホントにただの幼なじみなんだーって感じで落ち着いて、今に至るわけ。分かった?」

「…そんなの、他人の勝手な判断でしょ。‘好き’の表現なんて人それぞれなんだからっ」

 それでも納得しない様子で、里紗はまた逆方向にそっぽを向いた。

「里紗だって他人じゃないの。もういいじゃん。一番よく分かってるはずの本人達がそれでいいって言ってるんだから」

「……でもでもっ!」

「お、一之瀬。どこ行ってたんだよ」

 振り返ると、今戻って来たらしい帆高が手にしていた本を軽く掲げてみせていた。
屋上を出て教室に戻る際に図書室に寄ると言ったたため、途中で別れていた。

「は~、よくそんな厚くて小難しいヤツ読めるよな。俺だったら10ページでギブギブ」

「いや、お前なら3ページがいい所だろ」

 感心した声への冷淡な切り返し。帆高がこのような態度をとるのは、自分以外に彼だけ。
キャラ的にからかいがいがあるのだろう。そうなるとあたしも、自動的にその部類に入るということだけれども。

教室内の全員がゲラゲラ笑い出すさなか、ふと目が合って僅かに笑みを交わす。

‘相変わらずだね’

‘まぁな’

 このくらいの単純な意味合いなら、以心伝心と言えるレベルではなく互いに通じている。

「ねぇ、今のは何のアイコンタクト?」

 目敏い里紗が髪を一束引っ張り、前のめりととなった珠結の口元に耳を寄せた。

「……今日も今日とて、粘るのね」

「友達の恋の行方が気になるのは当然でしょ? 協力するのもまたしかりで」

「はいはい、お世話様。後はご想像にお任せしますから。てか、そろそろ‘自分の’教室に戻りなよ」
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