あたしが眠りにつく前に
里紗とは入学前のガイダンスの際に、たまたま隣に座って話をしたことから知り合った。
あたかも自分の教室かのように頻繁に訪れ、とはいえ自分のクラス内で浮いている訳でもなく。まるで一員のように溶け込んでしまっている姿に、器用だなと思う所がある。
里紗はちぇーっと口を尖らせて渋々立ち上がると、向かい合わせにしていた机を元に戻す。
「本当に、こういう話はこれっきりにしてほしいんだけどな。堂々巡りは毎回疲れるもの」
皮肉半分本気半分で里紗の後姿に笑いかけてみる。
「………カ」
「里紗?」
「…分かった。もう言わない」
しかし振り返った里紗の顔は真剣で、先程までの拗ね顔はどこにも残っていなかった。
「ねえ、珠結は一之瀬君のこと好き?」
「ええ!? ……そりゃ、ね。好き、だよ。口悪いしムカついてたまらない時もあるけど、大切な幼馴染だもの。って、何いきなり言わせるの」
帆高の方をチラリと横目で見ながら、珠結は小声で呟く。こんなこっ恥ずかしいこと、本人に聞かれたら穴に入るどころではすまない。たとえ地球の裏側まで掘り進めた穴でも足りやしない。
傍にいた二人の友人はいつしか他のクラスメートとの話に加わっており、珠結の答えを聞いていたのは幸い里紗だけだった。
「それはどうしても友情でしかないの?」
「うん、そうだよ…?」
「そっか。それ聞いて、少しは満足したかな。でもこれだけは言っとく、友達だから。失ってから、気付くことだって、世の中には五万とあるの。それだけは頭に入れといたほうがいいかも」
戸惑う珠結にいつもの笑顔に戻ってじゃね、と告げると、里紗は自分の教室に戻っていった。
失う…とは、帆高のことだろうか。帆高を失う時なんて、来るのだろうか。帆高の存在があまりにも当たり前すぎて、今まで考えたことなんてなかった。
理紗のいつにもない真剣な表情と意味深な言葉。つい数十秒前までのやり取りが頭の中をグルグルと巡る。
だがそのモヤモヤも「次、抜き打ちテストがあるらしい」という、教室中に響き渡った一言で強制的にかき消されてしまった。
あたかも自分の教室かのように頻繁に訪れ、とはいえ自分のクラス内で浮いている訳でもなく。まるで一員のように溶け込んでしまっている姿に、器用だなと思う所がある。
里紗はちぇーっと口を尖らせて渋々立ち上がると、向かい合わせにしていた机を元に戻す。
「本当に、こういう話はこれっきりにしてほしいんだけどな。堂々巡りは毎回疲れるもの」
皮肉半分本気半分で里紗の後姿に笑いかけてみる。
「………カ」
「里紗?」
「…分かった。もう言わない」
しかし振り返った里紗の顔は真剣で、先程までの拗ね顔はどこにも残っていなかった。
「ねえ、珠結は一之瀬君のこと好き?」
「ええ!? ……そりゃ、ね。好き、だよ。口悪いしムカついてたまらない時もあるけど、大切な幼馴染だもの。って、何いきなり言わせるの」
帆高の方をチラリと横目で見ながら、珠結は小声で呟く。こんなこっ恥ずかしいこと、本人に聞かれたら穴に入るどころではすまない。たとえ地球の裏側まで掘り進めた穴でも足りやしない。
傍にいた二人の友人はいつしか他のクラスメートとの話に加わっており、珠結の答えを聞いていたのは幸い里紗だけだった。
「それはどうしても友情でしかないの?」
「うん、そうだよ…?」
「そっか。それ聞いて、少しは満足したかな。でもこれだけは言っとく、友達だから。失ってから、気付くことだって、世の中には五万とあるの。それだけは頭に入れといたほうがいいかも」
戸惑う珠結にいつもの笑顔に戻ってじゃね、と告げると、里紗は自分の教室に戻っていった。
失う…とは、帆高のことだろうか。帆高を失う時なんて、来るのだろうか。帆高の存在があまりにも当たり前すぎて、今まで考えたことなんてなかった。
理紗のいつにもない真剣な表情と意味深な言葉。つい数十秒前までのやり取りが頭の中をグルグルと巡る。
だがそのモヤモヤも「次、抜き打ちテストがあるらしい」という、教室中に響き渡った一言で強制的にかき消されてしまった。