あたしが眠りにつく前に
◇◇◇
12月も頭を過ぎると北風が連日吹き荒れ、肌を突き刺す冷たさが一層辛くなった。屋上通いはやむを得ず中断となった。
とはいえ、何となくすぐに帰る気にもなれず、珠結と帆高は代わりに暖房の効いた図書室で放課後を過ごすことにしていた。
運動場をぼんやりと眺めたり本を読んだり、珠結は時々うたた寝をしたりして。場所は違えど穏やかな時が流れていた。
だが12月下旬間近の今日は、かなり事情が違っていた。
「……ゆ、珠結!」
「ひゃうっ!?」
慌てて頭をあげると、先程まで教卓に座っていた帆高が目の前でストップウォッチ片手に威圧的に見下ろしていた。
「今、確実に寝かけてたろ。何だよ、そのマヌケな声は」
「や、やだなぁ。寝てなんかないよ? ただ、ちょっと集中し過ぎてて…」
「よだれ垂れてる」
「嘘ぉっ!?」
「嘘」
バーカ、と帆高が珠結の額を軽く小突いた。あぁ、また騙された…。
「……はい、そうですよ。もう数秒で、爆睡の域まで達してました。正直、今すっごく、眠いです」
眠い、眠い、眠い。そればかりが頭の中を支配をしていて、他に何も考えられない。机に居座るプリント上のアルファベットの整列隊の解読など、言うまでもない。
「もう帰るか? 先生には俺から上手く言っといてもいいけど」
「うぅ…。でも、やらなかったら、通知表、絶望的じゃん。いや、それだけじゃ…済まないかも、だし」
珠結の現在の苦悩と眠気への格闘は、一週間前の学生ならではのイベントに由来する。その名も期末試験。
中間や期末の試験はいつにもまして、呑気に眠り込む訳にはいかない。だからこそフリスクやガムを普段より大量に用意し、意識の持続を図っている。
だが試験の最終日にそれらを入れたポーチを忘れるという、とんでもないミスを犯した。さらに運の悪いことに眠気の波は1限目から訪れて、昼前には薬を飲み切ってしまった。
購買はおにぎり、パンといった昼食類以外は置いておらず、渋々購入を決めた嫌いなブラックコーヒーも全て売切れだった。防眠アイテム0の末、午後の2時間はほぼ白紙と完全に白紙という大惨敗で、試験週間は幕を閉じた。