あたしが眠りにつく前に
 頑張ったつもりではあった。しかし勉強は結果こそが評価されるものなのだから、意思だけでは意味を成さない。

欄外は意味不明の線で溢れ、せっかく欄を埋めても寝ぼけ眼のせいで解読不能。結果は分かっていても、答案が返ってくるのが末恐ろしかった。

 その後、2教科の担当教員と担任から少々お叱りを受け、3日間授業後の補習を言い渡された。他の教科の成績はまずまずで、大失態は今回だけだったということで、冬休みの間は免れたのはありがたい。

「進級もかかってるの、よ。寝まくってたから、授業態度なんて、最悪だろうし。せめて少しでも、点数稼がないと。うわ…嫌だ。帆高を先輩って、呼ぶなんて」

「俺もそれは御免だ。てか、留年は3年だけの話で、1、2年は成績関係なく進級できるって。…限界来てるんだろ? あと5分で次のプリントとか、気にしてられる次元じゃないよな」

 それでも珠結はブンブンと首を振って拒絶する。留年疑惑は無くなってホッとするも、それでも途中で投げ出したくなどない。

こんな自分だって、やる時はやる。いつも頼り切っている帆高に、少しでも良いところを見せたい。それがあたしの、なけなしのプライド。

「ホント、珠結は時々信じられないくらい、真面目にも強情にもなるよな……おい、やめろ!!」

 右手が強く掴まれ、弾みで握っていたシャープペンシルが床に落ちる。右手の下に隠れていた左手の甲には、直径0.5mmの小さな穴が無数点在していた。全体的に赤く腫れ上がり、三カ所からは血が滲んでいる。

 珠結は反射的に帆高から目をそらす。100%確実に、帆高の最強の武器の魔眼は発動されている。その証拠に目は合っていなくても、全身に圧力を掛けられているようで動けない。

言うなれば蛇に睨まれた蛙。

「……ったく!」

 荒々しく教室を出て行く帆高の後姿を見届けると、珠結は肩をなでおろして左手をぼんやりと眺めた。

 前にしでかした時も同じだった。だから、帆高のいる前ではやらないように意識していたのに。

でもこうでもしなければ、目を開けていられなかった。声を絞り出せなかった。
帆高がこの自傷行為を許さなくても、せざるを得ない。

 3つの理由で潤んでいた目元を拭い、珠結は再びシャープペンシルを握り直した。
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