あたしが眠りにつく前に
「改めて? あたし何か頼まれてたっけ」

「だから、さっき俺が香坂と話してたことだよ。聞こえてたんだろ?」

 そうか、ストロベリーコロンの彼女は香坂さんというのか。…どこかで聞いたことあるような。同級生なのだから当然か、珠結はそう思うことにした。

「正確には声だけね。夢うつつだったから、内容までは聞き取れなかったよ」

「そっか。珠結さ、イヴの日暇?」

「うん。今年は家でおとなしくするつもりだから。それが?」

「実はさ、四国のいとこ一家が久々に遊びに来るんだよ。よりによってクリスマスに。で、その子供が小2の女の子なんだけど、その子へのプレゼント用意しとけって母さんが。…ほぼ命令形で」

 いくら‘魔眼の一之瀬’でも母親には頭が上がらない。帆高の性格は見たところ80%母親の遺伝。似ているからこそなのかもしれない。

「もしかして、そのプレゼント選びに付き合えってこと?」

「御明答。俺には小学生女子が好きな物なんて、さっばり検討つかないし」

「いいけどさ、無難な物しか思い付かないよ。ぬいぐるみとかコスメボックスとか。流行り物とかもさっぱりだしな~」

「十分だって。俺にはどれも同じにしか見えないから困るんだよ。ホント、助かった」

 帆高が安心したように頬を緩める。そんな顔をされては、力を入れない訳には行かないじゃないか。明日、妹のいる里紗に参考で聞いてみよう。

 他の策を考えようとした時、ふと疑問がわいた。

「プレゼント選びが香坂さんと話してたこと? なら最初に頼んで断られたから、あたしに頼んだの…?」

 本当に頼りたかったのは彼女。そう思うと再び襲って来る、言葉で言い表せない微妙な心持。新手の病気だったら面倒だな。

「違う。話の流れでイヴの予定聞かれて、珠結とプレゼント選びに行くって答えたんだよ。こういうこと頼めるの珠結以外にいないから、つい」

「…勝手に人の予定決めないでよ。了解しなかった場合は念頭に無かったのね」

 口では皮肉るものの、心の中では安堵と喜びが入り混じる。今しがたのモヤモヤから、こう気持ちがコロコロ入れ替わると自分は単純だなと思う。

帆高が真っ先に自分を頼ってくれた、ただそれだけで。
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