あたしが眠りにつく前に
 たとえ帆高がその誘いを受けても、彼女達は一刀両断されて玉砕する。そこで「やっぱりね」と笑うつもりはない。

人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られてしまう。ならば人の恋路を笑う者は、牛に踏みつけられた後に引きずり回されかねない。

「塚本君もそのメンバーの一人? 女子との出会いを必死に追い求めてそうなイメージなんだけど」

 帆高がよく一蹴してからかっている、友達の中では例外的な存在のクラスメートの彼の名前を挙げる。

「いや。あいつ、彼女持ち。あんま知られてないけど」

「うそっ!? そんなの初耳!!」

「他校生だからな。で、写メ見せてもらったけど、結構かわいい系だった。その時のアイツ、口角緩みっぱなしで花振りまいてて、すっげウザかった」

「へ~、一度見てみたーい」

「冗談半分で『会わせろ』って言ったら、全力で拒否された。理由が『心変わりされて、盗られるから』だと。まったく、根っからのバカだよな」

 こらえるように、帆高はくつくつと笑う。それは決して見た目だけのものではない。

 帆高は昔、親友だと思っていた人に裏切られたことがある。そのせいで一時は人間不信に陥った。孤独主義を貫いていた幼稚園児の頃に逆戻りしてしまうのではないかと、当時はかなりヒヤヒヤした。

結果的に不安が的中しなかったのに安心した。しかし後遺症は残った。人を信じるのを恐れ、本音を隠して仮面を被るという哀しい癖が。

 トモダチやシリアイは多くても、腹を割って話せるのは珠結や家族を入れても両手の指の数に満たない。あの時受けた心の傷の痛みは強く、今尚鈍く疼いているのかもしれない。

 もうあんな苦しみを味わいたくない。ならば最初から‘友達’に期待を寄せなければいい。その方が、楽だから。

 それでも帆高が認めた数少ない友人は、直接面識は無くても皆良い人だなと思える。彼らなら帆高を決して裏切ることはない。帆高の見識は間違っていない。この断言も単なる勘に過ぎないのだが。
< 42 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop